いよいよアルテラSoCが本格始動。OSベンダーにも引き合いが続々。

FPGAにARM® Cortex™-A9 MPCore™プロセッサを統合した「アルテラSoC」は、アプリケーションに最適な「マイARM」を手軽に構成できるとして、産業機器やオートモーティブ分野を中心に関心が高まっている。今号では、その「アルテラSoC」のサポートを表明しているOSベンダーのうち、ワールドワイドで活躍するウインドリバー社と、ITRONやT-Kernelに長けているイーソル社からそれぞれゲストをお招きし、組み込みOS市場の動向や「アルテラSoC」の可能性について語ってもらった。競合OSベンダーが会するというAPSならではの貴重な座談会の模様をお届けする。

メインイメージ

業界の注目を集める「アルテラSoC」Linuxに加えて商用OSもサポート

アルテラ小山:本日はお集まりいただきありがとうございます。アルテラが開発した「アルテラSoC」は、FPGAにARM Cortex-A9 MPCoreプロセッサを統合したユニークなデバイスですが、その機能や性能を活かすには優れたOSが不可欠です。オープンソースのLinuxについては「RocketBoards.org」コミュニティ・サイトで提供されていますが(※1)、商用OSのサポートもお客様にとってきわめて重要です。当社は、ワールドワイドではウインドリバーさんとのパートナーシップを進めている一方で、ITRON系へのニーズが強い日本国内ではイーソルさんともしっかりやっていくという方針のもとで、両社との連携を深めてきました。そうしたなかで、本日はウインドリバーからは志方さんに、イーソルからは上倉さんにお越しいただき、OSや「アルテラSoC」をテーマにお話を伺いたいと思っています。よろしくお願いします。

競合ベンダーを交えた座談会はAPSならではの企画で、編集部としてもとても楽しみにしていました。お二人が直接お話をする機会は普段はなかなかないと思いますが、面白いお話が伺えると期待しています。さて本題に入る前に、それぞれの会社の概要と、現在担当されているお仕事を簡単に教えてください。

ウインドリバー志方:それでは私から。米国に本社を置くウインドリバー社は1981年の創業で、NASAの火星探査機にも搭載された「VxWorks」のほか「Wind River Linux」などが代表的なソリューションですが、最近は、ネットワーク機器に特化した機能を提供するソフトウェア・モジュールや、M2Mデバイス開発用ソフトウェア・パッケージなど、OSプラスアルファの製品や、ツールにも力を入れています。通信機器や産業機器など、幅広い分野で採用されています。私は日本法人であるウインドリバー株式会社で、いわゆる営業技術のとりまとめをやっています。

イーソル上倉:イーソルは1975年の創業で、当初はソフトウェアの受託開発やエンジニアの派遣業務が主な事業でしたが、それらで培った組み込みソフトウェアのノウハウを製品として世の中に出していこうということで、1997年にμITRON系の「PrKERNEL」を出したのを皮切りに、2005年にはT-Kernelをベースにした「eT-Kernel」を発売し、これらは家電製品や産業機器などで広く使われています。私は、「eT-Kernel」と専用開発ツール、各種ミドルウェアを統合した「eT-Kernel Platform」を扱う、エンベデッドプロダクツ事業の取りまとめを担当しています。

さて、組み込みOS分野も競争が激しいとは思いますが、両社は市場では競合関係にあるのですか?それとも棲み分けの関係にあるのでしょうか?

ウインドリバー志方:どうでしょうか。私の感覚で申し上げると、正直、イーソルさんと競合した記憶があまりないんです。案外とお客様のほうで使い分けていらっしゃるのかもしれません。

イーソル上倉:ウィンドリバーさんは、通信機器などインフラ系アプリに強いという印象です。一方で私たちのμITRONやT-Kernelは、対象とするCPUやメモリなどの限られたリソースで動作するアプリがメインのマーケットです。まずは、このように棲み分けができているのではないかと思っています。

アルテラ小山:たしかにウインドリバーさんはARM Cortex-M系などのマイコンはサポートしていませんよね。

ウインドリバー志方:当社が対象にしているのはミッドレンジからハイエンドのマイコンですね。組み込み向け仮想化ソフトの「Wind River Hypervisor」があって、その上で「VxWorks」とLinuxが同時に動くとか、そうした複雑なシステムニーズに対応できるだけの懐の広さはあると思っています。

イーソル上倉:当社は『TRON』のイメージもある通り、古くはARM7などのローエンド向けプロセッサからスタートしていますが、ARMアーキテクチャの進化に伴い、最近ではμITRONおよびT-Kernelの対象マーケットも拡大し、ここ数年はハイエンドなマーケットも見据えています。

アルテラ小山:ということは、これからは戦うことになると(笑)。

マルチコアの特性を活かした複数OSの同時稼動ニーズが顕在化

組み込み市場も常に変化していると思いますが、組み込みOSという観点で、ここ最近の動きについて教えてください。

ウインドリバー志方:複数のOSを同時に動かしたいというニーズが増えてきたかなと感じます。プリンタ関連のお客様ですが、メインのプリントエンジン部分は「VxWorks」で制御しながら、操作パネルのユーザーインタフェースのところはAndroidを使いたいといった案件も出てきています。あるいは、マルチコアプロセッサのコアごとに違うOSを走らせて、お互いを隔離してシステムの信頼性を高めたいというニーズもあります。

イーソル上倉:志方さんが言われたように、たとえば「eT-Kernel」とLinuxなどの汎用OSを共存させたいというお話は増えています。ちなみにイーソルでは、数年前に「eT-Kernel」上でAndroidを動かす「eSOL for Android」を実際に開発しました。ハイパーバイザーとは異なる手法ですが、Androidアプリを動かしつつ、低レイヤーでは「eT-Kernel」が持つリアルタイム性が活かせるというのが狙いでした。

アルテラ小山:それであればハイパーバイザーとして提供したら面白そうですね。ハイパーバイザー関連のお問い合わせは当社にもたくさんきていて、ニーズはかなりあるように感じています。

イーソル上倉:そういう意見もありますが、単純なハイパーバイザーを提供してLinuxやほかのOSが動きますよと提案してもインパクトに欠けるので、当社では、「eT-Kernel」とLinuxなどが共存できるようなソリューションを提供したいと思っています。これは「eT-Kernel」自体がハイパーバイザーの機能を提供するというイメージですね。

ウインドリバー志方:そこは当社とイーソルさんとで目指す方向が明確に違っていて興味深いところかもしれません。ウインドリバーは「Wind River Hypervisor」というハイパーバイザーパッケージをまずは提供して、その上で「VxWorks」やLinuxやMicrosoft Windowsなどを動かそうという考えです。

「アルテラSoC」にはデュアルコアのARM Cortex-A9 MPCoreが搭載されているので、複数OSの実装など、面白いことができそうですね。

ウインドリバー志方:組み込みのお客様は、マルチコアを一般的なSMP(対称型マルチプロセッシング)として使うケースは少ないように感じます。どちらかというと、特定のコアに特定のアプリケーションを紐付けして性能を高めようというAMP(非対称形マルチプロセッシング)や、SMPで使うにしても、いわゆる「プロセッサ・アフィニティ」あるいは「プロセッサ・リザベーション」といった使い方が多いようです。

イーソル上倉:志方さんが言われたように、このアプリはこのコアで動かすという使い方もあれば、コアが空いたら別のアプリに割り当てるという使い方もあります。シングルコアを前提に開発されたソフト資産をマルチコア上にどう軟着陸させるかが、お客様が将来マルチコアに移行する時のポイントのひとつかなと思います。弊社のマルチコア対応OS『eT-Kernel Multi-Core Edition』は、SMP、AMPの混合が可能です。いわゆる「プロセッサ・アフィニティ」も可能で、まさにこのような要求に最適な解決策を提示できる製品だと思います。

評価ボード上ですぐに動くOSパッケージを両社ともに提供

ところで、両社ともに「アルテラSoC」用のOSをサポートすると表明していますが、そもそも「サポート」とはどういう意味、あるいは形態なのですか?

イーソル上倉:「アルテラSoC」の例で言えば、アルテラさんが開発した評価ボード上で動作する「eT-Kernel」を提供する、というのが「サポート」の意味で、「ボード・サポート・パッケージ」を略して「BSP」と呼んでいます。イーソルのBSPはタイマーやメモリ初期化、割り込み制御など「eT-Kernel」が即座に動作するのに必要なドライバで構成されていて、イーサネットやUSBのドライバは、ニーズに応じたオプションとして提供しています。

ウインドリバー志方:「VxWorks」自体はマイコンアーキテクチャによらず共通で、そこに個々のアーキテクチャの違いを吸収する部分を組み合わせて、BSPとして提供しています。「VxWorks」のお客様はイーサネット経由でデバッグする場合も多いので、イーサネットのドライバやShellなどもBSPに含まれます。

アルテラ小山:「アルテラSoC」のうちARM Cortex-A9 MPCoreとその周辺部分を「ハードウェア・プロセッサ・システム(HPS)」と呼んでいるのですが、感覚的には、イーソルさんはHPSのペリフェラル部分はオプションで提供、ウインドリバーさんはHPS全体を一括で提供、というイメージでしょうか。いずれにしてもそれぞれのBSPをお客様側で入手していただければ、当社の評価ボードあるいはアルティマの「Helio」ボード(※2)の上で、それぞれのOSがすぐに動くということを意味しています。

「アルテラSoC」を活用するには、ARM Cortex-A9 MPCore部分のソフトウェア開発とFPGA部分のロジックハードウェア開発の両方が必要です。開発環境や開発手法の複雑化は生じないのでしょうか。

アルテラ小山:その点は確実に課題のひとつになると考えています。アルテラはARMと共同で、Cortex-A9上のソフトウェアとFPGA側のハードウェアとの間で連携できる「ARM Development Studio 5(DS-5™) Altera® Edition」をリリースしていますが、OSベースでのソフトウェア開発にはイーソルさんの「eBinder」やウインドリバーさんの「Wind River Workbench」などの統合開発環境を使っていただく必要があるでしょうし、FPGA上にアクセラレータなどを実装したときに、「VxWorks」や「eT-Kernel」のドライバを誰が書くか、という問題も出てきます。お客様のそうした負荷を少しでも軽減したいと考え、ソリューションの提供に関して、OSベンダーさんや当社パートナーと取り組みを進めているところです。

イーソル上倉:お客様が「アルテラSoC」を使おうとした場合に、ハードはどうする、ソフトはどうする、といったアーキテクチャレベルのコンサルテーション的な話が必ず出てくると思うんですね。その意味では今でも当社の屋台骨のひとつが受託開発ですから、FPGA部分のロジック開発を含めて、お客様の悩みにも柔軟に対応できるのではないかと思っています。

ウインドリバー志方:ウインドリバーでももちろんお客様からご要望があれば受託開発に対応しますし、お客様専用のBSPの提供も可能です。これらと合わせて、当社ではお客様へのトレーニングにも力を入れていて、たとえば「VxWorks」のカスタムドライバの書き方をテーマにしたピンポイントのカリキュラムも用意しています。

エンジニアの関心も高い「アルテラSoC」新たな応用に期待が広がる

ところで、「アルテラSoC」に対する市場の評判はいかがでしょうか?

アルテラ小山:2013年5月15日に「アルテラSoCシンポジウム」というイベントを東京コンファレンスセンター・品川で開催したのですが、おかげさまで想定以上のご参加があり、当社の無料セミナーとしてはこれまでにないほどの盛況でした。当社販売代理店のアルティマから安価な評価ボード「Helio」も登場したところですし、具体的な評価や検討が始まっていくと期待しています。

イーソル上倉:当社では毎月テーマを変えて無料セミナーを開催しています。2013年6月に「アルテラSoC向けソフトウェア開発のポイント」と題してセミナーを行ったところ、定員を上回る応募があり、やはり「アルテラSoC」に対する関心の高さに驚きました。画像処理などを伴う車載アプリケーションや産業機器アプリケーションを担当するお客様のご参加が多くみられました。

ウインドリバー志方:当社にも通信機器系のシステムメーカーさんや産業機器系のメーカーさんなどから、「アルテラSoC」と当社の「VxWorks」に対して、すでにいろいろな引き合いが来ています。また個人的には、多くのセンサー入力を処理しなければならないM2M(machine-to-machine)コントローラへの応用も面白いのではないかと考えています。

お二人とも特定のデバイスベンダーに寄ったご発言は難しいかとは思いますが、「アルテラSoC」今後の可能性をどう見ていますか?

ウインドリバー志方:ソフトウェアとハードウェアの垣根はどんどん曖昧になっていますし、画像処理などをハードウェアでアクセラレーションしたいというニーズも高まってきています。その意味で、FPGAとARM Cortex-A9 MPCoreプロセッサを統合した「アルテラSoC」には、システムとしての広がりや自由度があるように感じます。これまでにないユニークなソリューションをお客様が実現できるように、アルテラさんやパートナーの皆さんと一緒に頑張っていければ嬉しく思います。

イーソル上倉:最近はFPGAを使っていない組み込み製品ってほとんどないはずで、さらにARM Cortex-A9 MPCoreを統合して新しい市場を作っていこうというアルテラさんの戦略には当社も可能性を感じています。一方で、先ほども開発環境の複雑さの話があったように、お客様から見て不安もあると思います。そこは当社であったり、あるいはウインドリバーさんであったり、そうしたOSベンダーをぜひ頼りにしていただきたいなと思いますね。以前に比べてデバイスの価格も随分とリーズナブルになったと聞いておりますし。

アルテラ小山:おっしゃるとおりです(笑)。そこはこれからも頑張るとして、プロセッサとFPGAとを組み合わせた「アルテラSoC」は、お二人からもありましたが、多くの可能性を秘めたデバイスだと自負しています。今日お集まりいただいた2社を含むパートナーさんと一緒にリファレンスのプラットフォームなどを提供しながら、「アルテラSoC」のメリットをお客様に引き続き訴求していきたいと考えています。ぜひこれからもよろしくお願いいたします。

なによりも、日本の組み込み業界からユニークな製品が生まれてくることが期待されます。本日はどうもありがとうございました。