最新のFAコントローラに「アルテラSoC」を採用 三菱電機が描く新しいモノづくりを支援する

FA機器市場で高いグローバルシェアを誇る三菱電機は、従来の産業用パソコンを置き換える最新の「C言語コントローラユニット(R12CCPU-V)」に「アルテラSoC」を採用した。高性能、小型化(ARM®とFPGAの統合)、低消費電力などが採用の決め手になったという。三菱電機グループ内で「名電(めいでん)」と呼ばれている同社の名古屋製作所で、開発についてお話を伺った。

メインイメージ
集合写真
三菱電機株式会社 名古屋製作所
(右から3番目)FAシステム第二部 コントローラ開発課長 井上 直丈 氏
(右から2番目)FAシステム第二部 コントローラ開発課 専任 江口 明宏 氏
(左から3番目)FAシステム第二部 コントローラ開発課 専任 楠原 崇史 氏
(左から2番目)FAシステム第二部 コントローラ開発課 専任 柴田 剛志 氏
日本アルテラ株式会社
(左端)技術部 シニア・エンジニア 齊藤 嘉朗 氏
(右端)マーケティング部 プロダクト・マーケティング・マネージャ 小山 崇之 氏

パソコン/マイコンを置き換える制御プラットフォーム

「MELSEC」(メルセック)ブランドのシーケンサに代表されるコントローラ製品を筆頭に、FA機器の幅広いラインアップを強みとする三菱電機。同社は2015年2月に、最新シーケンサ「MELSEC iQ-R」シリーズのラインアップのひとつとして、産業用パソコンおよびマイコンボード置換えを実現する「C言語コントローラユニット(型番:R12CCPU-V)」を発表した(図1、図2)。

ー 今日は三菱電機の名古屋製作所にお邪魔しています。APSでFA機器を取り上げるのは今回が初めてということもあり、とても楽しみにしてきました。さて、2015年2月に「C言語コントローラユニット」を発表されましたが、これはどういう製品なのですか?

柴田(三菱電機):工場やそこにある生産設備には、三菱電機の「MELSEC iQ-R」のようなシーケンサや産業用パソコン/マイコンボードが使われています。前者のシーケンサは、古くにあったリレー回路による順序制御を模したコントローラで、「ラダー言語」という専用のプログラミング言語により工場の現場でも簡単に制御回路を組み替えられることを特長としています。もうひとつの産業用パソコン等を用いる方法は、加工機や製造装置に組み込んで使われることが多く、C/C++などの汎用言語でプログラミングします。ところがパソコン本体や周辺機器などは長期的に見ると保守部品として手に入らなくなってしまう可能性が高いため、産業用パソコン/マイコンボードに代わる制御プラットフォームとして製品化したのが「C言語コントローラユニット」です。

小山(日本アルテラ):産業用パソコンを使われているお客様から長期的なメンテナンスが大変だという話があって、それに代わる制御装置として開発されたわけですね。

井上(三菱電機):はい。それに加えて、この「C言語コントローラユニット」は、次世代の情報制御にも対応できる革新的なコントローラとして作りあげました。今回開発した「C言語コントローラユニット」は、最新の「MELSEC iQ-R」シリーズに対応した製品になります。

楠原(三菱電機):熱対策や振動対策は三菱電機のFA機器のノウハウをベースにしており、三菱電機のシーケンサと同じ信頼性で、かつ、長期的にご提供できるのがメリットのひとつです。

図1

図1:パソコン/マイコンボード環境のさまざまな問題点を解決するC言語コントローラ。

ー この「C言語コントローラユニット」で直接C言語が走るのですか?

柴田:いえ、いわゆるインタープリタではありません。製造装置や生産ラインの開発担当者がパソコン上でC言語プログラムを開発して、コンパイルしたオブジェクトファイルをEthernetあるいはSDカード経由で書き込んで実行するかたちです。シーケンサで使われているラダー言語はリレーを模しているため動作がよく見えて順序制御に向いています。一方で、複雑な演算処理であったりEthernetを介した上位システムとの通信プロトコルの開発にはC/C++でのプログラミングが適しています。

小型ローパワーが採用の決め手

「MELSEC iQ-R」シリーズの一員として開発された「C言語コントローラユニット」に搭載されているのがアルテラの「アルテラSoC」だ。デュアルコアARM Cortex®-A9 MPCoreプロセッサとFPGAファブリックとをワンチップに集積したSoCデバイスで、産業用、車載用をはじめ、幅広い分野で採用が広がっている。今回採用されたのはローエンド向けの「Cyclone® V SoC」だが、ミッドレンジ向け「Arria® V SoC」、ハイエンド向け「Arria 10 SoC」「Stratix® 10 SoC」も展開している。

ー 「C言語コントローラユニット」のプレスリリースを見るとアルテラの「Cyclone V SoC」を採用したとあります。

楠原:「MELSEC iQ-R」のユニットは、高さ106mm、奥行き110mmとフォームファクターが小さいため、そのサイズに収めつつ、いかに処理性能を上げていくかが、まずは大きな課題でした。そう考えるとやはりマルチコア構成の1チップMPUが選択肢のひとつだろうと。また発熱をできるだけ抑えたいというのもありましたので、消費電力が小さいデバイスが望ましい。いろいろと評価検討したなかで、それらの要件を満たすにはアルテラの「Cyclone V SoC」が最適と判断しました。それと「Cyclone V SoC」にはFPGAファブリックがありますから、ユーザーロジックをインプリできるのは大きな魅力と考えました。「MELSEC iQ-R」シリーズ共通のRバスインタフェースの設計資産などをそのまま持ってこれますし、EthernetやUSBなどの標準インタフェースも用意されているので、単体プロセッサに外付けFPGAを組み合わせるよりも有利です。

小山:最初にお問い合わせをいただいたときに、次世代の製品として開発したいので性能を上げたいというお話があったほか、回路をインテグレーションして小型化したいと。まさにそこが「アルテラSoC」の価値が出るところと考えています。また、ローパワーの28nmプロセスでデバイスを製造していますので消費電力が小さく、今回のような小型実装が求められるようなシステムには最適です。さらにアルテラでは平均15年以上という長期供給の実績を持っておりますので、その点はフィールドでの使用期間の長いFA機器にはとても重要なファクターではないかと思います。

齊藤(日本アルテラ):ARMプロセッサとFPGAとをそれぞれ個別のデバイスで構成すると、基板実装を含めて、両者間のインターコネクトが課題になってきます。「アルテラSoC」だとARMプロセッサコアとユーザーロジックとのパフォーマンスは確立されていますから、お客様は回路を入れ込んでもらえばよくて、両者のつなぎの部分は意識しなくていいというところも強みと考えています。

江口(三菱電機):ASICあるいはカスタムSoCを開発するという方法もあるにはありますが、開発費や開発期間を考えると現実的ではないんですよね。「アルテラSoC」であればARMプロセッサ周りは動くことが保証されていますし、FPGA部分の開発もすべて自分たちでできます。三菱電機にとっては初めてのデバイスでしたから、若干の不安はありましたが。

柴田:ソフト開発を担当している立場から言うと、完成したハードウェアに万が一バグがあった場合に、ASICだと大変なんですよ。僕らソフト屋が悪いわけではないのにバグを回避するコードを書かないといけない(笑)。ところが「アルテラSoC」だと、ハードチームに「バグを直してから持ってきて」って言える(笑)。

計画どおり開発を完了

実際の開発にはさまざまな苦労が付きものだ。「C言語コントローラユニット」の開発チームはFPGAを扱った経験や過去にSoC(ASIC)を開発した経験は持っていたが、「アルテラSoC」を扱うのは初めて。開発ではどんな課題があったのだろうか。

ー 先ほど、初めて使うデバイスだったので少し不安があった、とおっしゃっていましたが。

楠原:正直不安はありましたが、まぁでもアルテラさんなら変なものは出してこないだろうと(笑)。とはいえ、出荷までに製品としてすべての機能を検証しなければなりませんから、その間に「アルテラSoC」に起因する大きな問題が出てきたら最悪は出荷を遅らせるという選択肢も考えてはいました。実際にはトラブルがなかったわけではありませんが、実機の立ち上げを含めてアルテラの齊藤さんにサポートしてもらったこともあって、意外と早く進んだかなと。FPGAのユーザーロジックのサイズがかなりギリギリになってしまいましたが、最後はなんとか収まりましたし。

齊藤:ARM Cortex-A9プロセッサのコア周波数やDDR3メモリインタフェースの周波数がきちんと設定されないなど、ツールのバグによるご不便をおかけする場面もありました。

江口:ARMプロセッサコアとFPGAの両方が入ったデバイスなので、どう作り込めば自分たちの思いどおりのものができるのか、というところが最初は判らなかったんですよね。初期設定や既存の設計資産を内部のAXIバスに持ってくるところなどにも多少の苦労はありました。ちなみに、新しいデバイスですからバグはある程度は覚悟していましたが想定よりは少なかったかなという印象です。

柴田: ソフト開発の立場で言うと、OSには従来の「C言語コントローラユニット」と同じものを使用したのですが、OSの問題なのか、「アルテラSoC」の問題なのか、われわれ側の問題なのか、という切り分けが難しかったというのはありました。

井上:いろいろあるのが開発で、実際いろいろあったんですが(笑)、それでも、サポートをきちんとしてもらいましたし、ともあれサイズと消費電力という当初の課題をクリアしながら、設定した期日までに製品として出せたので結果的にはよかったと思っています。

図2

図2:FAの新たな時代を目指して開発された「C言語コントローラユニット」の外観。

「e-F@ctory」で進化する工場を提案

最後に、「e-F@ctory」ついて訊いてみた。

ー 「インダストリー4.0」に代表されるように、IT技術を活用して工場の生産効率をさらに高めようという動きが盛んです。

井上:センサー技術の進化によって生産設備などの詳細な状況が簡単に集められるようになってきました。もうひとつのキーワードがビッグデータで、リアルタイムに集めた大量のデータを短時間で分析できるようになってきた。そういった技術を組み合わせて、たとえば、設備に故障の予兆が現れていると推測されるので予防的に部品を交換しておこう、といったことが最近は行われています。三菱電機では「インダストリー4.0」が謳われるかなり前の2003年から「e-F@ctory」(イーファクトリー)というコンセプトを打ち出して、工場の見える化を通じたリードタイムの短縮、稼働率の向上、省エネ化、および品質向上をお客様に提案し、数多くのお客様の工場でご採用いただいております。実際にここ名古屋製作所は「e-F@ctory」のモデル工場のひとつになっていて、海外のお客様を含めて多くの見学があります。今回ご紹介した「MELSEC iQ-R」シリーズも、もちろん「e-F@ctory」に対応しています。

ー 最後に、今回の開発全体に対する評価と、今後の取り組みについてお聞かせください。

井上:今回の「C言語コントローラユニット」の開発では当初求めていた機能や性能はすべて実現できましたので、アルテラのサポートを含めて、「アルテラSoC」を採用したのは正解だったと考えています。三菱電機では「進化と継承」をポリシーにしてFA機器の提供を進めていますが、一部には日本のモノづくりが弱くなっているとも言われていますので、FA機器や「e-F@ctory」の進化を通じて、日本のモノづくりの強化に少しでも貢献できればと願っています。

小山:ありがとうございます。これからもFA分野で求められる長期供給をお約束しながら、市場に合った最適なデバイスを提供していきます。すでに「アルテラSoC」の第二世代品である「Arria 10 SoC」の出荷も始まっていますし、クワッドコアのARM Cortex-A53を統合したハイエンドの「Stratix 10 SoC」も2015年末以降にリリースする予定ですのでご期待ください。

ー ありがとうございました。

APS EYE'S

FA業界にもICTの波が及んでいる。機械と人間がもたらす有機的な取り組みと、群を抜く高い信頼性がもたらす日本のモノづくりの原点が、ここ三菱電機にあった。小型化と高いプログラマビリティを備えたアルテラのCyclone V SoCが、世界に通用する日本のFA産業の未来も支えている。