ARMポートフォリオを拡充し、変革を遂げるAtmel

かつてEEPROMやFlashメモリなどの不揮発性メモリデバイスで知られてきたAtmelは、最近では8/32ビットマイクロコントローラ製品を幅広く取り揃え、それらの売上高が全体の60%以上を占めるなど、業界で五指に入る組み込みCPUベンダーとしての地位を確立しつつある。独自アーキテクチャに基づく組み込み用8/32ビットマイクロコントローラ「AVRシリーズ」のほかに、ARMアーキテクチャに基づく「SAMシリーズ」を展開。成長が期待されるさまざまな組み込みアプリケーションに価値を提案する。

メインイメージ

パソコンの黎明期にシリコンバレーで誕生

Atmelの創業は1984年に遡る。奇しくも1984年は、アップルがMacintoshを、IBMがPC/ATをそれぞれ発売した年でもあり、パーソナルコンピュータの登場によってエレクトロニクス産業が大きな成長と変貌を始めた時期にあたる。創業当初はEEPROMとPLD(プログラマブルロジックデバイス)を主に手掛けていたなかで、独自のシリアルインタフェースによってピン数を減らしパッケージの小型化を実現したEEPROMの「DataFlash」シリーズが装置を小型化したいという機器メーカーのニーズに合致し大ヒットを獲得し、業界での地位を確立した。

その後、ROMの代わりにFlashメモリを搭載したマイクロコントローラを業界に先駆けて1995年に投入。とくに、同社独自のアーキテクチャに基づく「AVR」マイクロコントローラは組み込み用途や教育用途に幅広く活用されている。合従連衡や企業買収の激しいシリコンバレーにおいて、今も創業時の社名が残る数少ない半導体ベンダーのひとつだ。

「2006年に新CEOにスティーヴ・ラウブが就任して以来、Atmelは大きく変革を遂げつつあります」と述べるのはアトメルジャパンで社長を務める櫟 晴彦氏である。組み込みCPUを事業のコアと新たに位置付け、研究開発や販売リソースなどを集中的に投下。一方で組み込みCPU以外の事業を大幅に整理し、収益性の改善を進めつつあるという。

その結果、タッチコントローラ「maXTouch」シリーズを含むマイクロコントローラ製品の売上高は、2006年には全体の24%であったものが、2011年には62%を占めるまでに拡大した。「マイクロコントローラの業界シェアは、1996年には20位以下でしたが、1998年には14位、2008年には8位、2010年には4位までに上がり、現在はおそらく3位のポジションにあると考えています(※1)」(櫟氏)。日本では「Atmel=組み込みCPUベンダー」というイメージはまだ醸成されていないものの、ワールドワイドの組み込み業界において、組み込みCPUサプライヤとしてきわめて重要な役割を担っているといえよう。

8ビットマイクロコントローラで組み込み市場をリード

ARMベースのマイクロコントローラおよびマイクロプロセッサを紹介する前に、Atmelの代名詞のひとつにもなっているAVRマイクロコントローラについて簡単に触れておきたい。「AVRマイクロコントローラは当社独自のRISCアーキテクチャで開発された8ビットマイクロコントローラで、ワールドワイドで約17%のシェアを誇ります」と、同社の特約店支援グループでグループマネージャーを務める柏木 悟氏は述べる。ちなみに誕生は1997年だ。

機能を限定し業界最小サイズ(2mm x 2mm)を実現した「tinyAVR」シリーズ、メインストリームとなる「megaAVR」シリーズ、高機能化を図った「AVR XMEGA」シリーズがある。また、アーキテクチャを32ビットに拡張した「AVR32」シリーズとして「AVRUC3」シリーズがある。

AVRマイクロコントローラのアプリケーションは、白物家電、AV機器、インダストリアルなど多岐にわたる。どちらかというとOSを必要としない応用が多いという。AVRアーキテクチャで構成されたタッチコントローラ「maXTouch」の採用も増えているという。同社は2008年に静電容量式のタッチセンサ技術を持つ英Quantum Research社を買収し、自社のポートフォリオに「QTouch」テクノロジを取り込んできた。静電タッチ式のスイッチやスライダは、機械的な構造を必要としないため耐久性に優れるとともに意匠(デザイン)の自由度も高く、さまざまな製品や機器で使われるようになっていて、それに伴って「maXTouch」の応用も拡大しているという。

同社の特約店支援グループでマネージャーを務める佃 和久氏は、AVRに関連したユニークなコミュニティ活動を紹介した。「AVRの普及にはイタリアで生まれた『Arduino』というコミュニティ活動が一役買っていると考えています。オープンソースとして公開されている『Arduino』のボードや開発環境『Arduino IDE』は、学習教材としても広く利用されています」。

ARMへの取り組みは1996年にスタート

続いて、ARMベースのマイクロコントローラ製品およびマイクロプロセッサ製品について取り上げよう。AVRマイクロコントローラのイメージが強いAtmelだが、かなり早い1996年の段階で、ARM7のライセンスを取得している。

ARMベースの最初の製品は2002年に登場した「FR40xxx」シリーズである。ARM7TDMIプロセッサを搭載し、2MBのFlashメモリと256KBのSRAMを内蔵した。2004年には、ブランド名を「SAM」(Smart ARM-based Microcontrollersの略)に変更するとともに、ペリフェラル機能を強化した新たなシリーズ「SAM7」を発売した。さらに、2006年から、プロセッサコアをARM926EJにエンハンスして200MHzおよび400MHz動作を実現した「SAM9」シリーズを発売している。なお同社では、「SAM9」シリーズはマイクロコントローラではなくマイクロプロセッサと位置づけている。

一方で、ローパワーの組み込み用途には、ARM Cortex-M3搭載した「SAM3」シリーズを2009年から展開。動作時の消費電力がたとえば100MHz動作時で30mAと小さい点が特徴のひとつだ。また2012年にはARM Cortex-M4を搭載した「SAM4」シリーズをポートフォリオに追加した。櫟社長は、「知名度の高いAVRマイクロコントローラとは違って、AtmelがARMベースのマイクロコントローラ製品およびマイクロプロセッサ製品を幅広く展開していることをご存知ないお客様も残念ながら少なくありません。実際には10年にわたって製品を提供していることを、この機会に知っていただければと思います」と、Atmelが幅広くマイクロコントローラおよびマイクロプロセッサを展開していることをあらためて述べた。

Cortex-Mマイクロコントローラで200品種を揃える

Atmelでは現在、ローエンドの「SAM3N」と「SAM4N」から、ハイエンドの「SAM3X」まで、5種類のサブファミリを展開中だ。すべてのサブファミリに共通する特徴として、静電容量式のタッチセンサコントローラ「QTouch」機能とFlashメモリの搭載が挙げられる。また、ローパワー志向も「SAM3」シリーズおよび「SAM4」シリーズの特徴で、1.62Vから3.6Vまでの低電圧で動作し、バックアップモードではわずか1.8μAしか消費しない。また、「SAM3A」にはCANインタフェースとUSB OTG(on-the-go)が、「SAM3X」にはEthernet MACが搭載され、コネクティビティが求められるアプリケーションに対応した。

開発環境としては、一般的なARMエコシステムのほかに、Atmel独自の「Atmel Studio6」が使える。「Atmel Studio 6」はもともとはAVRマイクロコントローラ用に用意された統合開発環境だが、現在ではすべてのSAMシリーズに対応している。AVRマイクロコントローラを対象に開発された過去のソースコード資産をそのまま「SAM3」や「SAM4」に持ってくることができるほか、1,000種類以上のサンプルソースコードを集めた「Atmelソフトウェア・フレームワーク」や、タッチパネル機能を実装する「QTouch Composer」などが統合されている。

オペレーティングシステムとしてはARM Cortex-M系でおなじみの各種リアルタイムOSに対応するとともに、ITRON系ではイー・フォースの「μC3」に対応済みである。同社のフィールドアプリケーションエンジニアリンググループでグループマネージャーを務める帝理 モロ氏は、「近日中にローパワー版の『SAM4』を投入するなどして、『SAM3』シリーズと『SAM4』シリーズを合わせて、2012年内におよそ200品種に増やしていきます」と述べ、ラインアップを業界最大規模に拡充していく方針を明らかにした。

ARM926EJ搭載で汎用性の高い「SAM9」

「SAM9」シリーズはARM926EJプロセッサを搭載した32ビットマイクロプロセッサである。このカテゴリーのマイクロプロセッサはグラフィクス用途などマルチメディアを志向した製品が多いが、Atmelの「SAM9」シリーズはそのような味付けがとくになされていないプレーンなスペックを特徴としており、産業機器やPOS端末などをはじめとして幅広く使われているという。いわば「ありそうでなかった」のが「SAM9」の最大の特徴ともいえるだろう。

コア周波数は200MHzまたは400MHzで、品種によって異なるが、LCDコントローラ、USBインタフェース、CANインタフェース、Ethernet MAC、暗号アクセラレータ、ビデオデコーダ、2Dアクセラレータ、10ビットA/Dコンバータ、カメラインタフェース(CMOSセンサー入力)、抵抗膜式タッチスクリーンコントローラなどのペリフェラル機能が内蔵される。このうち暗号アクセラレータは、「スマートメーターやサーベイランスなど、秘匿性が求められるアプリケーションを対象に搭載した機能です」と、同社のフィールドアプリケーションエンジニアリンググループでシニアフィールドアプリケーションエンジニアの龍 幸慶氏は説明する。

エコシステムも確立されている。モジュール、キット、オペレーティングシステム、UIソリューションなどがサードパーティから提供されており、これらを上手に活用することで、製品開発期間の短縮が図れる。このうちオペレーティングシステムについては、コミュニティサイトである「AT91SAM Community」にて、Linux、Android、およびMicrosoft Windows Embeddedに関するさまざまなリソースやソースコードが提供されている。

アプリケーションを通じて価値を提案

Atmelでは「SAM」シリーズをより広く知ってもらおうと、アトメルジャパンオフィス(東京都品川区)内にカスタマートレーニングセンターを開設した。まずは、同社特約店のアプリケーションエンジニア向けにトレーニング機会を設けて、特約店の知識レベルを上げていく予定だ。また、顧客向けにはこれまでもハンズオンセミナーを実施しており、顧客サイトでのマイクロセミナーも新たに企画中だという。

8/32ビットAVRシリーズ、Cortex-M3/M4搭載「SAM3」および「SAM4」シリーズ、ARM9搭載「SAM9」シリーズなどを幅広くラインアップし、不揮発性メモリベンダーから組み込みCPUベンダーへと変革を遂げつつあるAtmel。今後はこれらのポートフォリオを組み合わせながら、タッチセンシング、オートモーティブ、センサーネットワーク、ZigBeeを中心としたワイヤレス、LEDライティング、スマートエネルギー、およびバッテリマネージメントに代表される分野にフォーカスし、具体的なアプリケーションを訴求していきたい考えだ。

「お客様が抱いているAtmelのイメージも少しずつ変わってきたと感じています。組み込みCPUベンダーとしてのAtmelを広く知っていただけるように、特約店のご協力も得ながら、最適な性能をローパワーで実現するという当社のバリューをお客様に提案していきたいと考えています」と櫟社長。「テクノロジの創造を通じて、顧客の無限の可能性を実現する」を企業ビジョンに掲げるAtmel。ライセンスから数えると15年以上にも及ぶARMプロセッサの経験を基礎に、組み込み分野で新たな価値の創造を目指す。