PSoC、FMマイコン、無線通信製品 IoT攻略の「3本の矢」

Cypress Semiconductor社(以下、Cypress社)は、Spansion社との事業統合、およびBroadcom社からのIoT事業の買収により、事業領域を一気に拡大した。マイコンやメモリ、無線通信、センサー信号処理など、IoTアプリケーションに必要な部品を顧客に一括提供できる体制を整えた。ここではマイコン製品の動向を中心に、IoT市場に対するCypress社の取り組みについて、話を聞いた。同社は今後、マイコンやメモリと、Broadcom社から引き継いだ無線通信製品を組み合わせたシステム提案に力を入れるという。

メインイメージ
集合写真(前列3名 左より)
Cypress Semiconductor 日本法人
マイコン事業部 プロダクトマーケティング部 プロジェクト課長 末武 清次 氏
マイコン事業部 事業部長代理 兼 コーポレートプライシング室長 細田 秀樹 氏
マイコン事業部 プロダクトマーケティング部 部長 中津浜 規寛 氏

PSoCとFMマイコン、2製品ラインの開発を継続

半導体業界における企業のM&A(合併と買収)は昔から珍しくないが、ここへ来て、その頻度が急増している。こうした業界の再編劇は、主に「自動車」、「IoT」、「ワイヤレス」、「電源・アナログ」といったキーワードを軸に進んでいる。Cypress社は2015年3月にSpansion社と経営を統合、2016年7月にはBroadcom社からIoT事業を買収した。

業界再編のキーワードともなっているIoTだが、IoT向けの端末は、大きく「センサー入力」、「演算処理」、「無線接続」の三つの機能から構成される。Cypress社は、フラッグシップ製品であるPSoCをベースとした新製品開発に加え、M&Aを通して、これらの部品を顧客に一括提供できる体制を整えた。例えば、センサー入力には最新製品の「PSoC Analog Coprocessor」を、演算処理には「PSoC 4」と旧Spansion社の「FM0+マイコン」を、無線接続には自社開発のBLE製品に加え、Broadcom社から取得したWi-Fi製品やBluetooth製品、ZigBee製品を提供する。さらに、各種メモリ製品とエナジー・ハーベスティング電源管理ICが脇を固める。

IoT端末の演算処理を担うCypress社のプロセッサ製品には、PSoCプログラマブル システムオンチップシリーズとFMマイコンシリーズの2種類がある(図1)。PSoCは、プロセッサ内部の周辺機能をユーザが手元でカスタマイズできるマイコン、FMマイコンは周辺機能が固定、つまり従来型の汎用マイコンである。

図1

図1:PSoCシリーズとFMマイコンシリーズの概要。

PSoCとFMマイコンには、それぞれ一長一短がある。PSoCは実現できる周辺機能の自由度が高く、ユーザ側で細かい調整が可能だが、反面、事前の準備(周辺機能の仕様検討)に手間がかかる。一方、FMマイコンはラインアップとして用意されている範囲でしか周辺機能を選択できないものの、あらかじめ性能や消費電力が最適化されたLSIが提供され、ユーザはソフトウェアの開発に注力できる。例外もあるが、試作や少量生産品の開発、周辺機能に特殊な調整や最適化が求められるシステムの開発にはPSoCが向いており、量産システムの開発にはFMマイコンが向いている。

同社は、PSoCシリーズとFMマイコンシリーズの内部の回路ブロックやインターフェースの共通化を進めており、回路ブロックを組み合わせてさまざまな仕様のマイコン製品を早期に開発できる体制を構築しているという。「PSoCとFMマイコンが1つになったり、どちらかのシリーズがなくなったり、ということはありません。今後も、2つの製品ラインの開発を継続していきます」(細田氏)。

手元で周辺機能をカスタマイズ、ARM、ディジタル、アナログを集積

PSoCシリーズのカスタマイズ可能なユーザ・モジュールには、シリアル通信やタイマ、I/O機能などを構成するためのディジタル・ブロックと、A-DコンバータやPGA、コンパレータなどを構成するためのアナログ・ブロックがある。ユーザは、開発環境(PSoC Creator)のGUI上でこれらのブロックを並べ、ブロック間を結線して、所望の周辺機能を実現する。回路情報は、PSoCの起動時に、内蔵するフラッシュROMから読みだされて設定される。周辺機能に対応するAPIやサブルーチンは、開発環境が自動生成する。

PSoCシリーズの最初の製品は、2000年代初めに出荷が始まった。当初は独自設計または8051互換の8ビットCPUコアを搭載していた。2010年前後からは、英国ARM社のCortex-Mシリーズを採用している。現在の主力品種はCortex-M0/M0+コアを搭載する「PSoC 4」だが、Cortex-M3コアを搭載する「PSoC 5LP」や8051互換コアを搭載する「PSoC 3」、独自設計の8ビットCPUコアを搭載する「PSoC 1」の供給も続けている。また、現在Cortex-M4とCortex-M0+を搭載するデュアルコア品の開発が進行中。さらに、Cortex-M7コア品の開発も予定している(図1)。

現在、主力のPSoC 4は、ARMコアの中で最も電力効率の高いCortex-M0コアを搭載している。2016年第2四半期以降に出荷する品種には、処理性能を維持しつつ、消費電力を従来の2/3に抑えたCortex-M0+コアを搭載する。「16ビット・マイコンのユーザがPSoC 4へ移行するケースが出てきています。マイコン単体ではなく、ボード上の周辺部品も含めて置き換えると、全体のコストが下がるため、外部回路を共通化する際に、プログラマブルなPSoCは手頃な選択肢と言えます」(中津浜氏)。

Cypress社はさらに、PSoCベースのアーキテクチャに、BLE対応の通信制御回路を内蔵している製品も提供している。これを利用すれば、1チップでIoT端末の「演算処理」と「無線接続」の両方の機能を実現できることになる。

Cortex-M0+コアを搭載している品種(PSoC 4 Sシリーズ)については、LUTを利用してディジタル入力/出力信号の論理演算を行えるプログラマブルなI/Oブロックを搭載している。同社はこの機能をSmartI/Oと呼んでいる。SmartI/Oは、例えば簡易なエンコーダやディジタル信号を分配する際のバッファとして使える。また、二つのPWM出力信号の周波数のずれを利用してLEDを明滅させたり、ボード上の結線ミスを修正したりする場合にも有効である。

Cypress社はPSoCシリーズに静電容量式のタッチセンサー制御回路「CapSense」を組み込んでおり、PSoC 4もこの回路を備えている。これにより、ボタンやスライダのタッチセンサー、あるいは近接センサーを容易に実装できる。さらにPSoC 4の一部の品種になるが、システムや使用環境に合わせてタッチセンサーの特性を自動補正する機能(SmartSense)を備えているものもある。同社は、Cortex-M0+を搭載したPSoC 4の評価ボード(CY8CKIT-041)を49ドルで提供している。

フィルタ特性を柔軟に変更、センサー信号処理向け

前述のPSoC 4とは別に、Cypress社は「センサー入力」の用途に特化した「PSoC Analog Coprocessor」を2016年6月に発表している。この製品は、Cortex-M0+コアを搭載したPSoC 4をベースに、アナログ・ブロックの構成をセンサー用のアナログ・フロントエンド処理に最適化している。

PSoC Analog Coprocessorは、アナログ・ブロックとして、アナログ・フィルタや方式の異なる複数のA-Dコンバータ、D-Aコンバータ、OPアンプ、アナログ・マルチプレクサ、CapSenseなどを搭載している。アナログ・フィルタのパラメータは、スイッチト・キャパシタ回路を利用して容易に変更できる。例えばアナログ・フィルタの特性をハイパスからローパスまで、大きく切り替えたい場合にはPSoC Analog Coprocessorが必要となる。一方、通信処理のようにフィルタ特性をそれほど変化させる必要がない場合、あるいは単純な信号増幅やアナログ制御を行いたい場合は、PSoC 4が向いている。

図2

図2:PSoC Analog Coprocessorを搭載した評価ボード(CY8CKIT-048)。

同社は、PSoC Analog Coprocessorを搭載した評価ボード(CY8CKIT-048)を49ドルで提供している(図2)。本ボードには、サーミスタや環境光センサー、モーション・センサー、湿度センサー、近接センサー、Arduinoシールド用コネクタなどが搭載されている。デバイスの量産出荷は2016年第4四半期に開始する予定。

電力効率が高いFM0+マイコンに“多メモリ”、“微小”の2品種を追加

従来型の汎用マイコンであるFMマイコンシリーズは、FM0+、FM3、FM4という3種類の製品群がある。CPUコアとして、それぞれCortex-M0+、Cortex-M3、Cortex-M4を搭載している。これとは別に、現在Cortex-M4とCortex-M0+を搭載するデュアルコア品の開発が進行中。また、Cortex-M7コア品の開発も予定している(図1)。

以下では、ARM社のCPUコアの中で電力効率が最も高いCortex-M0+コアを搭載するFM0+マイコンについて説明する。FM0+マイコンの最初の製品である「S6E1Aシリーズ」は2014年に出荷を開始した。S6E1Aの電源電圧は2.7~5.5Vだったが、現在は電源電圧を1.65~3.6Vに引き下げて低電力化を図った「S6E1Bシリーズ」と「S6E1Cシリーズ」を量産出荷中である。電力効率は、以前のS6E1Aが70μA/MHzであったのに対して、S6E1Bは65μA/MHz、S6E1Cは50μA/MHzとなっている。

S6E1Bの特徴は“大容量メモリ”にある。内部メモリとして、512KバイトのフラッシュROMと80KバイトのSRAM、さらに48Kバイトのワーク・メモリ用フラッシュROMを搭載している。また、AES規格に準拠した暗号回路やHDMI-CECインターフェース、スマートカード・インターフェース、LCDドライバ、USBインターフェース、24チャネルの12ビットA-Dコンバータなどを装備する。「S6E1Bは、もともとスマート・メータにつながるコンセントレータ向けとして開発しました。しかし最近では、それ以外の用途でも引き合いがあります。プログラムが複雑になり、大容量のメモリが欲しいというお客様が増えてきているためです」(末武氏)。例えばセンサー・ハブやヘルスケア端末、POS端末などの用途に利用できるという。

一方、S6E1Cの特徴は“微小なサイズ”にある。最小のパッケージとして、外形寸法が2.35mm×2.73mmの26ピンWLCSPを用意する。フラッシュROM容量は128Kバイト、SRAM容量は16Kバイト。S6E1Bと異なり、暗号回路やLCDドライバは搭載しない。12ビットA-Dコンバータのチャネル数は8。同社は、FM0+マイコン(S6E1B)を搭載した評価ボード(FM0-100L-S6E1B)を49ドルで提供している。

Wi-Fi、Bluetooth、ZigBeeを獲得、システム・レベルの提案が可能に

Cypress社がBroadcom社から買収したのは、IoT向け無線通信事業とその関連資産である。具体的には、
●Bluetooth内蔵Cortex-M3/M4マイコン
●BLE内蔵Cortex-M3マイコン
●Wi-Fi内蔵Cortex-R4/M3マイコン
●Wi-Fi無線通信LSI
●Bluetooth無線通信LSI
●Wi-Fi・Bluetooth統合型無線通信LSI
●Bluetooth・ZigBee統合型無線通信LSI
などの製品がBroadcom社からCypress社へ移管された。

さらに、WICEDブランドでBroadcom社が提供していた
●Wi-Fi無線通信モジュール
●Bluetooth無線通信モジュール
●Wi-Fi・Bluetooth統合型無線通信モジュール
など、今後はCypress社が開発・販売する。

今回の製品ラインアップの拡大により、同社はIoTの分野で、「無線接続」を含む幅広い提案が行えるようになった。「WICEDモジュールには、米国Amazon.com社のIoT向けクラウド・サービスと接続するための環境がすでに用意されています。これを活用し、サイプレスのマイコン製品やメモリ製品と組み合わせて、システム提案を行うことが可能になりました」(細田氏)。

例えば、FM4マイコンの中にはSDカード・インターフェースやEthernet通信機能を備えている品種がある。これらの機能を使って、FM4マイコンとBroadcom社のWi-Fi無線通信LSIを直接つなぐことが考えられる。FM4マイコンは搭載メモリの容量が大きいので、Wi-Fiのプロトコル・スタックも問題なく動作する。この組み合わせは、例えばIoT向けの組み込みルータ/ブリッジの用途に適しているという。これからもCypress社に注目していきたい。

APS EYE'S

CypressのPSoCは、デジタルとアナログにプログラマビリティを与え、BOMコスト削減に大きく貢献する。IoT時代のアナログ技術だからこそ、デバイスに統合されていく。FMマイコンとPSoCシリーズの融合は、さらなるシナジー効果を高めるだろう。