ARMデュアルコアSoCを活かせるリアルタイムOSとして「μC3/Standard」を採用

カシオ計算機(以下、カシオ)では、EXILIM(エクシリム)ブランドのデジタルスチルカメラ(以下、デジカメ)を展開している。EXILIMは、ラテン語の「eximius」と英語の「slim」を組合せた造語で「驚くほど薄い」という意味である。このEXILIMにイーフォースのリアルタイムOSである「μC3(マイクロ・シー・キューブ)/Standard」が採用された。ARMデュアルコアSoC「EXILIMエンジンHS」の性能を活かせるOSとして評価されたからだ。ここでは、EXILIMの魅力やμC3/Standardの導入メリットなどを探る。

メインイメージ

クイックレスポンスと高速連写をコンパクトデジカメで実現

全世界でのデジカメ出荷台数は1.3億台を超えており、いまや成熟産業となっている。カシオでは、デジカメの黎明期ともいえる1995年にQV-10を発表して以来、市場を牽引してきた。「当時、QV-10は世界で初めて280g未満のデジカメとして液晶モニタを搭載したもので、ここから一般向けデジカメ市場が始まったといえるでしょう」(カシオ 渋谷氏)。2002年から「EXILIMシリーズ」が投入された。現在このブランドで統一されており、2012年3月現在22製品がラインアップされている。「EXILIMシリーズの第一弾となるEX-S1は、11.3mmという薄さに抑えたものです。重視したのは、この薄さに加え、パッと出して、パッと撮るというクイックレスポンスです」(渋谷氏)。

当時のデジカメは、起動やズームが遅く、シャッターボタンを押してから実際に撮影されるまでのロス時間となるレリーズタイムラグが大きかった。「EX-S1では、起動やズームの高速化に加え、0.01秒というレリーズタイムラグを実現することで、シャッターボタンを押したと同時に撮影できるものにしました」(渋谷氏)。その後EXILIMシリーズは、液晶画面の大型化、画像処理エンジンの低消費電力化、高密度実装による小型/薄型化、さらに大容量バッテリの搭載などによって進化してきた。

「CIPA(カメラ映像機器工業会)の撮影枚数基準で、満充電時に1,000枚の撮影枚数を実現したものもあります。EX-H10という製品ですが、ここまでの撮影枚数を実現できたのはいままでにありませんでした」(渋谷氏)。このクイックレスポンスに加えカシオが取り組んだのは、高速連写である。EX-F1という製品では、1秒間に60枚という動画並みの連写機能を実現した。

最新製品「EX-ZRシリーズ」は、このクイックレスポンスと高速連写を、コンパクトデジカメで実現させたものだ。EX-ZR20とEX-ZR200である。これらに採用されているのが、ARMデュアルコアSoC「EXILIMエンジンHS」である。

イーフォース製OSの高い完成度とフレキシビリティが採用の決め手に

EXILIMエンジンHSは、ARMコアとハードウエアロジックを2つずつ搭載したデュアルコアSoCである。さらに、リコンフィギュラブルプロセッサも搭載している。これにより、FPGA(Field-Programmable Gate Array)よりも高速にハードウエア処理を切り替えることができる。

デュアルコアは、パソコンの世界ではSMP(Symmetric Multiple Processor)で動作させることが多いが、こと組み込みシステムではAMP(Asymmetric Multiple Processor)での動作が有利となる。「SMPでの動作はある程度システムにお任せになってしまいますが、AMPはタスクを意図的に切り替えるなど、きめ細かなチューニングが可能です」(カシオ 細田氏)という。

EXILIMエンジンHSは、AMPで動作させることで、起動やオートフォーカスの高速化、快速シャッターなどを実現している。CPUを1つだけ搭載していたものでは、撮影後の画像処理に時間がかかってしまい、次の撮影までの間隔があいてしまう。EXILIMエンジンHSでは、1つのCPUでリアルタイム性が求められる処理を行っている間、もう一方のCPUでは画像処理やファイルへの書き込みなどを行わせている。

このEXILIMエンジンHSのOSとしてイーフォースのμC3/Standardが採用された。μC3/Standardは、μITRON 4.0に準拠したリアルタイムOSである。数あるμITRON 4.0準拠のOSのなかで、なぜイーフォース製品を選んだのか。「EXILIMエンジンHSの性能を活かすOSを探していて、こういったハードウエアで目指す性能などをイーフォースさんに相談したところ、フレキシブルに対応していただいたことが決め手でした。マルチコアのSoCを採用するには、いろいろと大変だと思いました。そこで、OSについても各社の製品を比較検討したり、社内でも教育を行うなど、かなり慎重に選定しました」(細田氏)という。

「イーフォースをお使いいただく最大のメリットは、フットワークの軽さを活かしてお客様の指向にフレキシブルに合わせられ、サポートも迅速に対応できることです」(イーフォース 与曽井氏)。ユーザー志向の優れた製品としっかりとしたサポートが高い評価を得ている。

高速連写機能を活かし一眼レフカメラのような撮影が可能に

EXILIMエンジンHSによって、新製品のEX-ZR200では、約0.98秒の起動時間、約0.13秒のオートフォーカス時間、レリーズタイムラグでは約0.024秒、撮影間隔は約0.27秒という高い性能を実現している。「SMPですと各タスクの処理をコントロールしにくいのですが、AMPでは明確に役割を分担させることができるため、最高のパフォーマンスを引き出すことができました」(細田氏)。EXILIMエンジンHSでは、高速連写機能を活かしたHDR(High Dynamic Range)画像やHDR ART画像、背景ボカシなど一眼レフカメラのような撮影が可能となっている。

HDRは、露出の異なる5枚の連写画像から適切な明るさの3枚を組合せてピクセル単位で合成するもので、まるで肉眼で見たような画像を得られるものだ。HDR ARTは、絵画調などのアート処理を高速に行うことである。HDR ARTは、動画撮影でも行うことができる。「いままでのコンパクトデジカメでは、たとえば人物に合わせてしまうと青空がうまく写りませんでした。HDRなら青空と人物の両方に最適な露出で美しい写真が撮れます」(渋谷氏)。しかも、フルHDの動画を撮影中に高速連写もできるなど、いままでのコンパクトデジカメの概念を超えた新しい機能を実現している。

高速連写によるプレミアムオートPROという機能も搭載している。これは、逆光や夜景、ズーム撮影といった難しいシーンでも、カメラが状況に応じ、高速連写で得られた画像の自動合成を実施することで、より綺麗な写真を撮れるものだ。また、マルチフレーム超解像技術で光学ズームの約2倍まで解像度を保ったまま高品位なズームができるプレミアムズーム機能も実現した。ちなみに、EX-ZR200は光学12.5倍/プレミアムズーム25倍、EX-ZR20は光学8倍/プレミアムズーム16倍となっている。

省電力ながら機敏な動作などの得意分野で、イーフォース製OSの活躍を期待

イーフォースのサポートへの評価も高い。「CPU間の通信は極めて重要なポイントであり、イーフォースさんには柔軟に対応していただきました。OSの出来がかなり良く、納入後の問い合わせも少なく助かりました」(細田氏)という。ことSoCだと、OSベンダは半導体メーカとの緊密な打ち合わせが必要となる。「SoCの開発スケジュールに合わせて、きっちりとしたOSを出していただきました」(細田氏)。「採用されたSoCが国内メーカのものだったので、打ち合わせは比較的スムーズでした」(与曽井氏)。

開発環境とのリンクも大切だ。イーフォースは、各ツールベンダとの関係が良好であり、今回は国内デバッガメーカとの組合せで良い結果をもたらすことができた。「OSの情報をデバッガ上で表示させる機能をつけるなど、カシオ様の使い勝手の向上につとめました」(与曽井氏)。さらに、通信ではとかくオーバーヘッドが課題になることが多いが、あらかじめ通信のオーバーヘッドをシミュレーションしておき、そのままの性能で納品されたので助かったという。

ちなみに現在、リアルタイムOS以外のOSを組み込みシステムに採用する事例も増えているが、割込み時間が保証されないなどの課題もある。「結果としてサクサク動かせたことから、μITRONを採用して正解でした」(細田氏)という。すでに別のプロジェクトでもイーフォースのμC3/Compactの採用が決定している。「省電力ながら動作が機敏などイーフォースさんの得意分野での活躍を期待しています」(細田氏)。さらに、今後の製品開発には、いままで蓄積したソフトウエア資産を流用していくという。「マルチコアは大変というイメージが多いなか、カシオ様は高次元で使いこなされているという印象です」(与曽井氏)という。

最後にカシオの渋谷氏は、「技術的にとことんこだわった製品ですので、ぜひAPSの読者であるエンジニアの皆さんにも触れていただき、その良さを体感していただきたい」と結んだ。イーフォースは、今後もカシオのデジカメの高性能化、差異化に大きく貢献していくだろう。