ARM Cortex-M3採用で日本発、世界標準のマイコンを目指す。

富士通セミコンダクターは、マイコン事業でおよそ40年の豊富な経験と実績を有するリーディングカンパニーである。独自開発の特徴あるオリジナルコアと、お客様に密着したサポートが40年の歴史を支えてきた。その富士通セミコンダクターが初めて標準コア Cortex-M3を採用したマイコンがFM3ファミリである。ARM Cortex-M3コアを内蔵する汎用32ビット・マイコン「FM3ファミリ」で、マイコンの世界標準を目指す。

システム開発に占めるマイコンの役割が増大。

エレクトロニクスシステムの開発現場では、マイコンやシステムLSIをはじめ、プロセッサコアで動くアプリケーションやミドルウェアなど、ソフトウェアの比重が増している。

最近の32ビットマイコンは、性能対価格比と演算速度対消費電力比の向上が著しく、従来製品ではハードウェアで処理していた機能を、新規製品ではマイコンとソフトウェアの組み合わせで実現するケースが増えており、ここで問題となるのが、プロセッサコアの違いである。かつては、開発企業ごとに独自コアを搭載しているのが一般的だった。マイコンシステムのソフトウェア開発は、マイコンの製品ファミリごとに異なる開発ツールを使ってソースコードを作成し、検証する必要がある。すなわち、採用するマイコンの品種を変更すれば、プロセッサコアの構造や開発ツールの使い方などをはじめから学び直さなければならない。

過去に遡ると、8ビットマイコンの時代では品種変更に伴う負担が軽く済んだのは、ソフトウェアの規模が小さかったからだ。しかし16ビットマイコンの時代になるとソフトウェアの規模が増大し、OSの利用によってソフトウェアの構造が複雑化してきた。品種変更の負担は8ビット時代よりも重くなり、32ビットマイコンが使われるようになると、その負担は無視できないほど大きくなっていった。OSの採用は当たり前になり、16ビット時代よりもさらに大規模で複雑なソフトウェアを搭載するようになったからだ。

マイコン事業の転換点となるARMコアの採用。

ここにきてマイコン業界では、独自コアから標準コアへ切り換える動きが急加速している。はじめは、システムLSI向けのプロセッサコアであるARM7やARM9を汎用マイコンに取り込む動きが起こった。しかしARM7/9は、ともに汎用マイコンを想定して開発されたものではない。そのため、最近までARMマイコンは組み込み分野では大きな流れとはならなかった。

しかしここにきて、汎用マイコン搭載を想定したプロセッサコア「ARM Cortex-Mシリーズ」がリリースされたことで、その様相が大きく変わった。海外の半導体ベンダーを筆頭にCortex-Mシリーズを採用する会社が続々と登場してきたのだ。そして独自アーキテクチャーのリーダ的企業までが Cortex-M4コアを採用したことは、業界に少なくない衝撃をもたらした。国内ベンダーでも Cortex-M3コアを採用したマイコンを既に製品化している。

そして2010年11月。富士通セミコンダクターはCortex-M3コアを内蔵したマイコン「FM3ファミリ」を発表した。Cortex-M3コアは、Cortex-Mシリーズで主力品種となっているプロセッサコアである。富士通セミコンダクターはマイコン事業で40年近くの経験を有しており、マイコンユーザーにとって非常に評価の高いベンダーである。同社がARMコアの汎用マイコンを製品化したことは、とても大きな期待を持って迎えられた。

富士通セミコンダクターのマイコン事業を担う、マイコンソリューション事業本部マイコン事業部長の米田氏は、ARMコアの採用を「マイコン事業のターニングポイント(転換点)」と位置付ける。Cortex-M3コアを内蔵したマイコン「FM3ファミリ」を採用したお客様は、サードパーティ企業による豊富なミドルウェアと開発ツールを利用できるようになり、その結果、開発工数が減り、開発期間が短くなり、開発コストも削減できる。さらには、製品をグローバル展開する場合、現地に合わせて容易にカスタマイズできる点など、ARMコアを採用するメリットは計り知れない。

ARMコアの最大性能を引き出す、高い技術力。

Cortex-M3コアを内蔵する汎用マイコンを製品化した企業は、富士通セミコンダクターだけではない。プロセッサコアが同じマイコン同士だと、性能にさほどの違いはないと考えるかもしれない。しかしそれは誤りだ。同じCortex-M3コアを内蔵していても、その仕上がりはベンダーによってまったく違う。

違いはどこからくるのだろうか。その違いは2つある。1つ目は、Cortex-M3コアの性能をどこまで引き出せるか?2つ目は、プロセッサコア以外に内蔵する周辺回路(ペリフェラル)性能、である。FM3ファミリには、Cortex-M3コアの動作周波数が最大144MHzと高い製品がある。またコアの性能を最大限に引出すFLASHメモリを内蔵している。ここまで高い周波数で動かしている汎用マイコンはめずらしい。演算処理性能は動作周波数に比例するため、FM3ファミリは演算処理性能を極めて高い水準まで引き出している。

またFM3ファミリには、従来製品で評価されてきた周辺回路が豊富に搭載されている。高速動作の内蔵FLASHメモリや高精度・高分解能の12bitアナログデジタル(A/D)変換器、各種のタイマ回路などがあげられる。

さらに加えると、ASIC・SoCでARMコアを使用した設計ノウハウを、システムLSIですでに貯えていることや、マイコンベンダーとして40年にわたってお客様を総合的にサポートしてきた豊富な経験と実績が、他社との違いを生み出す。米田氏は「むしろコアの共通化によって、製品やサービス、サポートを含めたトータルのビジネスチェーンの差で差別化がしやすくなっている」と語る。

高速と低消費を4つの製品系列でカバー。

FM3ファミリの具体的な姿を紹介していこう。2つの製品ライン、4つの製品系列に分けられる。処理能力が高く、電源電圧が2.7V~5.5Vで動作周波数が40MHz/80MHz/144MHzの「ハイパフォーマンスライン(High Performance Line)」と、消費電力の低減をねらい電源電圧の下限を1.8V/1.65Vまで下げ、動作周波数40MHz/20MHzの「ローパワーライン(Low Power Line)」である。

「ハイパフォーマンスライン」は、動作周波数が80MHz/144MHzの「ハイパフォーマンスグループ(High Performance Group)」と、動作周波数が40MHzの「ベーシックグループ(Basic Group)」に分かれている。いずれも電源電圧の上限が5.5Vと高いので、Cortex-M3コアを内蔵するマイコンの中でも、ノイズ耐性に優れる。マイコンソリューション事業本部 マイコン事業部 マイコン第二設計部の土井氏は「お客様がマイコンを使われる場所の雑音環境を設計基準に盛り込んでいますので、対ノイズ性では、競合するマイコンよりも優れています」と説明する。

動作周波数が高い「ハイパフォーマンスグループ」では、FLASHメモリの動作速度も重要である。プロセッサコアの動作周波数がいくら高くても、FLASHメモリの読み出し周波数が低ければ、マイコンの実効的な処理性能は低下してしまうからだ。FM3ファミリのFLASHメモリは、80MHz動作品では60MHzまでノーウエイトで読み出せる。144MHz動作品では製造プロセスのさらなる微細化により144MHzまでノーウェイトで内蔵FLASHメモリのデータを読み出せる。Cortex-M3内蔵マイコンの中では最高水準である。

もう1つの製品ラインである「ローパワーライン」は、動作周波数が40MHz(電源電圧1.65~3.6V)の「ローパワーグループ(Low Power Group)」と、動作周波数が20MHz(電源電圧1.8~5.5V)の「ウルトラローリークグループ(Ultra Low Leak Group)」に分かれている。動作周波数を下げることで消費電力を低めに抑えた製品群である。

「ローパワーグループ」では、新しい機能を備えた新開発のFLASHメモリを内蔵させる。「デュアルオペレーションと呼んでいる機能で、上位バンクと下位バンクで読み出しと書き込み/消去を独立実行できます」(土井氏)。この機能により、FLASHメモリにプログラムコードだけでなく、データも格納しやすくなる。従来はデータ格納用のEEPROMをマイコンとは別に用意する必要があったが、デュアルオペレーションによってEEPROMを不要にできる。「ウルトラローリークグループ」は、待機時の消費電流を低く抑えることを狙った製品群である。マイコン内部に複数の電源電圧ドメインを設けて、それぞれの電源を遮断することによって、消費電流1μA未満の低消費電力モードを実現している。

お客様の声をダイレクトに反映する。

マイコンの製品仕様は、お客様のご要望をマーケティング担当者が持ち帰り、マイコン設計者とすり合わせをして決まっていく。設計工数や設計リソース、製造コスト、納期などの制約があるので、お客様の要望すべてを製品仕様に盛り込むことは、現実には難しい。また、お客様によって要求仕様には違いがあり、どのような形で吸収するかも非常に重要になってくる。

「ウルトラローリークグループ」を担当する、マイコンソリューション事業本部 マイコン事業部 マイコン第二設計部の山崎氏は、「設計現場にいると、お客様からの情報がなかなか入ってこないため、できるだけお客様に直接お会いしてヒヤリングできるような行動を心がけています」。

設計部門はお客様との物理的な距離が離れているために、お客様の情報が入りにくい。特に海外からの要望は、設計部門に届くまでに時間がかかる。山崎氏は「海外のお客様とも直接お会いすることで、タイムリーにご要望を汲み取るとともに、要求仕様の細部にわたって仕様を詰めていきます」と語る。設計部門にいると、要求仕様を実現するための回路構成など、詳細仕様を把握しながら、お客様とディスカッションできる。

富士通セミコンダクターの半導体事業はかつて「ASICの富士通」と呼ばれたように、お客様と設計部門が仕様をつめ、ダイレクトに会う文化が存在する。現場に赴きお客様の要求を設計に反映する山崎氏のようなエンジニアは、富士通セミコンダクターのDNAに刻まれた顧客志向の文化を強く反映している。また、これらを実現できる人材の豊富さは、富士通セミコンダクターならではである。

設計を支援する情報発信使いやすいマイコンを目指して。

FM3ファミリの品種数は2011年4月末の時点で96品種に達しており、この秋には200品種に増える。2012年度中には、累計で500~600品種を開発する計画となっている。2年ほどで品種数が500を超えるというのは、マイコン以外の半導体製品では考えにくい。

このようにマイコンは品種数が多く、そして、お客様の数も多い。そのため、お客様がマイコンベンダーに問い合わせをしなくても、システム開発に必要な情報を簡単に入手できる環境整備は非常に重要である。

そこで富士通セミコンダクターでは、各種参考ドキュメントとFM3のソリューションWebサイトを整備した。ドキュメントの整備において、アプリケーションノートは多くの周辺機能を周辺別に操作するドキュメントをサンプルプログラムと一緒に整備し、26編のドキュメントとしてリリースした。ハードウェアマニュアルは、製品ごとに別れていたものを『ペリフェラルマニュアル』1冊にまとめた。通常、ドキュメントは製品シリーズごとに作成し、ウエブサイトに登録していく。同じプロセッサコアを使った製品でも、シリーズが違うと別のドキュメントを読むことになり効率的とは言えない。FM3 ファミリのドキュメントは 1 冊だけだ。ファミリ内で共通化してある部分は 1カ所にしか出てこない。新しいペリフェラルを使うときは、その部分だけを読めばいい。現在、ドキュメント総数は70編を越え、これからも順次増強をしていく。また、Webサイトでは従来マイコンやメモリなどの半導体製品を選んでから、製品ごとのドキュメントを探さなければならない構造だった。お客様のサポートを担当する、マイコンソリューション事業本部 ソリューション技術部の熊谷氏は「現在は、搭載されるアプリケーションを選んでいただくだけで、推奨するマイコンがリストアップされるようになっています。」と語る。

富士通のトップページから「電子デバイス・半導体」を選ぶと、アプリケーション別に「ホームアプライアンス」、「産業機器」、「自動車」、「モバイル」、「通信」のアイコンが表示される。例えば「ホームアプライアンス」のアイコンをクリックすると、「洗濯機」や「エアコン」などのアイコンが表示され、ここで洗濯機のアイコンをクリックすると、洗濯機のブロック図とともに、推奨するマイコンの製品名、製品概要へのリンクがリストとして現れる。お客様が何を開発するか(アプリケーション)は、あらかじめ決まっている。しかしお客様が半導体製品の分類に精通しているとは限らない。アプリケーションから推奨マイコンを自動的に教えてくれるサイトであれば、マイコン製品から探さなければならない構造に比べ、はるかに使いやすいだろう。

独自開発のアクセラレータでデジタル信号処理を強化。

FM3ファミリの今後の展開はどのようになっていくのだろうか。一つはCortexシリーズの新しいコアの採用だ。Cortex-M3の上位互換にCortex-M4があるが、顧客ニーズと合致すれば、採用も検討するという。今後の富士通セミコンダクターが採用するコア動向が気になるところだ。

もう一つは、FM3の処理能力を飛躍的に向上させる独自開発のハードウェアアクセラレータをFM3ファミリに追加することだ。このアプローチはすでに始まっている。デジタル信号処理に適したハードウェア「リアルタイム・アクセラレータ(RAC:Real-time Accelerator)」を開発中である。通称「RAC」と呼ばれるこのハードウェアは複数の32ビット演算器で構成されており、処理アルゴリズムに応じて演算器同士の接続を動的に変更できる。RACの開発担当者である、マイコンソリューション事業本部 マイコン事業部 マイコン第一設計部の樋口氏は「RACを使うとFM3マイコンの動作周波数を低く抑えられるので、消費電力を低減できます。例えばモーター制御に動作周波数が80MHzのマイコンが必要だとしましょう。RACを追加すると、同じモーター制御を動作周波数が20MHz近辺で扱えるようになります」とRACの威力を語る。RACを搭載したFM3マイコンの製品化は2012年度にリリース予定である。先が非常に楽しみな技術だ。

使いやすい、選びやすい、信頼を得られるマイコンへ。

FM3ファミリは、お客様にとって使いやすく、選びやすく、そして安心感のあるマイコンを狙って開発された。「これからもお客様視点で製品を提供して参ります」と米田氏は語る。

安心という意味では、安定した供給力も重要だ。富士通セミコンダクターは前工程ラインを東日本と西日本の両方に有しており、地震対策を強化してある。東日本大震災では、岩手工場の前工程ラインを、わずか7日で再稼働させた。工場でも重要な製造装置を免震台に設置するなど、地震を想定した対応が早期稼働を実現した。また前工程ラインを有する三重工場は、半導体工場では世界初・日本で唯一建屋全体を免震構造にしてあり、FM3はスーパーコンピュータ『京』のCPU製造ラインで製造され、ここでも信頼性の高い製品であることがうかがえる。半導体製品の供給を途切れさせないことが、お客様の安心につながる、富士通セミコンダクターの強い意識がそこにある。

「一度お使いいただけると、次も使いたくなる。そんなマイコンベンダーを目指しています」と米田氏はFM3ファミリにかける意気込みを表現してくれた。