開発環境の標準化が支えるテルモの先進的な医療機器

著名な北里柴三郎博士らが創設発起人となって、体温計を輸入に頼らず国産化しようと、大正10年(1921年)に創業したテルモ。現在は、補助人工心臓、人工心肺、輸液ポンプ、シリンジポンプなど、病院向けのメディカル機器を中心に、個人向けの電子体温計、電子血圧計、血糖測定器などを手がけている。こうした電子化が進むメディカル機器の開発において、同社はARMマイコンを中心とした標準プラットフォーム化を推進。合わせて開発環境にはIARシステムズの「IAR Embedded Workbench」を採用した。

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標準プラットフォームのひとつとしてARMマイコンを採用

ご担当の業務について教えてください。

中村:私が所属する「MEセンター」はメディカル・エレクトロニクスを担当する部署で、メカとエレキ(電子回路)とソフトウェアを組み合わせたメディカル機器を年間で20製品から30製品ほど開発する役割を担っています。その中でソフトウェア開発全体のマネージメントを担当しています。

櫨田:私は少し大きめの人工心肺装置のソフトウェア開発を担当しています。血液をいったん体外に取り出して、酸素を与えてから、体内に戻すという装置です。

望月:私は、血糖測定器、電子体温計、電子血圧計など、コンシューマ向けの小型メディカル機器のソフトウェアを担当しています。

それぞれの装置にはARMマイコンが搭載されているのですか?

望月:担当製品の中では血糖計がARMマイコンです。それ以外の製品にはテキサス・インスツルメンツのMSP430を使っています。

櫨田:担当の人工心肺装置はARMマイコンですが、必要なセンサーチャネル数や消費電力などを評価して選定しますので、製品によってはARMマイコン以外を選択することもあります。

中村:マイコンは社内の委員会(コミッティ)で選定します。供給の継続性のほか、小ロットでも提供してくれるか、消費電力はどうか、そもそもベンダーが医療分野への適用を認めているかどうか、といった点を評価して決めています。開発の標準化を進めるために、2年ぐらい前から、ARMマイコンを標準プラットフォームのひとつとして定めています。

「EW430」と「EWARM」で開発を効率化

今、標準化のお話があって、ARMマイコンが標準プラットフォームのひとつになっているとのことですが、開発環境はどのように選定し構築しているのですか?

中村:従来は製品ごとに個別に構築していましたが、現在はマイコンと同じように標準化を図っていて、MSP430に対してはIARシステムズの「EW430」を、ARMマイコンに対しては同社の「EWARM」を採用しています。

松田:テルモさんでは当初はMSP430向けに「EW430」を活用されていたところ、プラットフォームの標準化を進める過程で、機能の拡張性にも優れているマイコンとしてARMマイコンを選択され、開発環境についても標準化を図るべく「EWARM」をご採用いただいた、という経緯になります。

望月:私は直接かかわってはいないのですが、数年前にMSP430を標準プラットフォームのひとつに定めた当時は、開発環境としてIARシステムズの「EW430」とほかのツールなどとも、さまざまな比較検討をしたうえで、「EW430」を採用したと社内で聞いています。その後、ARMが標準マイコンになったときに、性能面はもちろん、慣れ親しんだ「EW430」と操作性が変わらない点などを評価して、「EWARM」を標準開発環境として選定しました。

マイコンや開発環境を標準化した狙いについて教えてください。

中村:プラットフォームを標準化しておけば、組織内で製品プロジェクトをまたがって人材を移すことができますし、製品間のアーキテクチャやOSの共通化も図れます。さまざまなレベルでメリットを得ようというのが標準化の狙いです。

赤星:いろいろな会社の方とお会いしていますが、ハードウェア、ソフトウェア、さらにはシステムまでも標準化して開発効率を高めていこうという流れがとても強くなっていると感じます。とくに、自動車やメディカルのように製品寿命が長い分野はそうした標準化を志向する傾向が顕著で、多くのお客様が取り組んでいらっしゃいますね。

望月: 実際にARMマイコンを初めて利用したプロジェクトにおいても、違和感なくスムースに開発することができました。

松田:まさに、IAR Embedded Workbenchによる標準化のメリットだと思います。先ほど中村様も言われたように、さまざまな製品やプロジェクト、それらに参加する開発メンバーの流動性確保やノウハウの共有を、異なるマイコン間でも実現できる点がIAR Embedded Workbenchの最大の特長となります。この点をご評価いただけていることは非常に嬉しく思います。

情報化に進むメディカル機器の開発を支援

実際に「EWARM」を使いながらARMマイコン機器の開発を担当してみて、いかがですか?

望月:ARMマイコンは利用できるミドルウェアやOSが多いのでプログラムを組みやすいと感じます。また、コンシューマ向けの製品はソフトウェアサイズに制約があるのですが、「EWARM」には性能やサイズを優先した最適化オプションがあるので助かります。あえて問題点とすれば「EW430」と「EWARM」は画面の見た目や操作感がほとんど同じなので、どっちを立ち上げているのか、ときどき判らなくなることがあるぐらいでしょうか(笑)。

櫨田:ARMマイコンはベンダーのウェブサイトでいろいろなサンプルプログラムが掲載されているので、レジスタ設定作法のような細かいTIPSを含めて参照できるのは便利ですね。使ったことのないペリフェラル機能を使うときなどに、プログラミングのとっかかりが判りますから。

赤星:「EWARM」の便利な機能も是非ご活用いただきたいですね。例えば、「EWARM」に含まれるデバッガソフトである「C-SPYデバッガ」のマクロ機能を使うとデバッグ手順を自動化することができますし、オリジナルのコードを変えずにブレークポイントを設定することもできます。「EW430」で組んだマクロを「EWARM」で使うことも可能なので、開発効率が上がると考えています。

中村:そういう使い方やノウハウはどんどん提案してもらいたいですね。

そのほかIARシステムズに要望などはありますか?

中村:メディカル機器は、開発から製品ライフサイクルが終わるまで、仕様を変更した、ビルドした、リリースを出した、といった記録をすべて残しておかなければなりません。そうした管理作業の自動化を検討中なのですが、たとえばプロジェクト管理ソフトと「EWARM」との連携を実現してもらえるとすごく助かるなと思っています。

松田:ツール間連携は当社でも重要と捉えていて、たとえば「Eclipse IDE」用のプラグインと集中バージョン管理ソフトである「Apache Subversion」用のプラグインを提供するなど、対応を進めています。確かに、プロジェクト全体を管理するソフトとも連携が取れれば、お客様の利便性向上にお役立ちできると思いますので、持ち帰って社内で提案したいと思います。非常に良いご指摘をいただきありがとうございます。

赤星:「EWARM」はグラフィカルなツールですが、コマンドラインでの操作にも対応していて、とくに大規模開発においてコマンドラインを叩いているお客様も少なからずいらっしゃいます。直接連携していない管理系ソフトからでもコマンドライン経由でコントロールできるかもしれませんので、そうした使い方もお客様のニーズに合わせてご提案していきたいと思います。

さて、テルモさんのメディカル機器開発に関するお話を伺ってきましたが、これからのメディカル機器はどういった方向に進化していくのでしょうか?

中村:これまでのメディカル機器は独立して使われてきましたが、これからはお互いがつながっていくようになるでしょう。また、プライバシーの点で難しい問題はありますが、計測データをクラウドに集約し解析するといった新たな応用も考えられます。実際にメディカル機器と電子カルテとの連携はすでに始まっていて、大きな方向としては情報化あるいはIT化が進んでいます。当社としては「医療を通じて社会に貢献する」というミッションに沿いながら、そうした新しい技術も積極的に取り組んでいきたいと考えています。

松田:テルモさんでは年間20製品から30製品を開発されているとのお話が冒頭でありましたが、品質を担保しながら開発の効率を高めていくには、マイコンや開発環境の社内標準化がいっそう重要になると感じます。今回頂戴したさまざまなご意見やご要望に対応できるよう努めるとともに、テルモさんの開発におけるパートナーとして、製品やサービスを通じて、これまで以上にご支援させていただくことができればと願っています。

本日はありがとうございました。