ARMへの取り組みを加速するマイクロソフト。

パソコンの歴史を作ってきたマイクロソフトは、2011年に日本法人の設立25周年を迎えた。来るべき次の四半世紀に向けて、社名を「日本マイクロソフト」に変更するとともに、IT分野だけでなく組み込み分野や携帯分野を含めた幅広い領域での取り組みを強化し、さらなる飛躍を遂げようとしている。組み込み向けソリューションおよびARMプロセッサへの取り組みについて、同社でエンベデッド事業を担当する松岡正人氏に聞いた。

Visual Studioを核とした開発環境がアプリケーション開発を加速。

組み込み市場に対するMicrosoftの取り組みを教えてください。

松岡:Microsoftが組み込み市場に参入したのは1996年ですから、もう15年になります。当初は「Microsoft Windows CE」という名称で展開していましたが、現在は「Microsoft Windows Embedded」というブランドのもと、「Microsoft Windows Embedded CE 6.0」と2011年3月に正式リリースした「Microsoft Windows Embedded Compact 7」を中心に、車載機器向けの「Microsoft Windows Embedded Automotive」、POS端末専用の「Microsoft Windows Embedded POSReady」など、各分野のニーズに応えるソリューションを幅広く提供しています。また、Windows Embedded系以外の取り組みとしては、組み込み向けの実行環境である「.NET Micro Framework」をオープンソースとして提供しています。

組み込みメーカーにとってWindows Embeddedを採用するメリットはどこにあるのでしょうか。

松岡:大きく二つのメリットがあると考えています。ひとつがアプリケーション開発のしやすさです。Windows Embeddedの開発環境である「Microsoft Visual Studio」は世界でもっとも広く使われている開発ツールと言われています。そのためVisual Studioに習熟したエンジニアも多く、オペレーティングシステム機能そのものに大きな差がなくなっている今日、Visual StudioおよびWindows Embeddedの組み合わせでもたらされる生産性の高さは大きなメリットと言えるでしょう。もうひとつがユーザーインタフェース(UI)の作りやすさです。グラフィカルなUIの開発は組み込み機器メーカーにとって負担のひとつになっていて、Adobe Flashが使えることを必須条件としているお客様もいらっしゃいます。Windows Embeddedであれば、Adobe Flashに加えて、アプリケーションロジックとUIとを完全に分離できる「Silverlight for Windows Embedded」も使えます。Silverlightを活用すれば、UIのスキンを入れ替えるだけで、ひとつの製品を複数のモデルや仕向け地に横展開することも容易です。

ARMv7をフルサポートするWindows Embedded Compact 7。

2010年3月1日に、ドイツで開かれた「Embedded World」で、Windows Embedded Compact 7が正式にリリースされました。どのような特徴があるのでしょうか。

松岡:APSの読者の皆さんに関連するところではARM v7アーキテクチャのフルサポートが挙げられるでしょう。具体的には、マルチコア、コンパイラオプション、最新の命令セット、グラフィクスアクセラレーションのサポートなどが新たに追加されました。また、フリースケール・セミコンダクタ、テキサス・インスツルメンツ、東芝セミコンダクター社、ルネサス エレクトロニクス、富士通セミコンダクターなど、ARM Cortex-A8あるいはA9を展開しているシリコンパートナーから、ARMプロセッサを搭載したボードパッケージが提供される予定です。

機能の面では、機器メーカーのUI開発を加速するために、SilverlightとAdobe Flash 10.1を標準で搭載しています。また、情報端末アプリケーションに適した「Internet Explorer Embedded 7」をバンドルしているほか、映像や音楽などのマルチメディアサポートも強化しています。

先ほど説明のあった「.NET Micro Framework」とはどのようなソリューションなのですか?

松岡:.NET Micro Frameworkは、ネットワークやローレベルAPIを抽象化したコンパクトな実行環境で、オープンソースとして無償で提供されます。たとえば白物家電で、OSにはμiTRONを使いながら、パネルの制御部分は.NET Micro FrameworkでUIを開発して組み合わせる、といった使い方が可能です。実際に2009年12月に開催された「TRONSHOW 2010」では、T-Kernelに.NET Micro Frameworkを載せた環境で、Windows LiveやTwitterのデモが行われました。現在.NET Micro Frameworkは、ARM7(MMUありおよびMMUなし)、ARM9、およびCortex-M3をサポートしています。Windows Embeddedを載せるほどではないが、UIを含めてWindowsのテクノロジーを活用したい、といった組み込みアプリケーションにぜひご検討いただきたいと思います。

2011年1月に、「Microsoft Windows 7」の次期バージョンで、x86プロセッサに加えてARMプロセッサもサポートするとの発表がありました。

松岡:ラスベガスで開催された2011 International CES(コンシューマ・エレクトロニクス・ショー)の場で、当社CEOのスティーブ・バルマーが次期WindowsでのARMサポートを表明するとともに、ARMプロセッサを搭載したnVidia、Qualcomm、およびテキサス・インスツルメンツ各社のSoC(システムオンチップ)上で、ARMネイティブとしてビルドした次期WindowsやMicrosoft Officeなどのデモを行いました。現時点でこれ以上の詳しい話を申し上げる段階にはないのですが、マイクロソフトは、ローパワーと高性能を兼ね備えたARMプロセッサに、組み込み分野だけではなくメインストリームの分野でも積極的に取り組んでいきますので、ぜひご期待いただきたいと思います。