ヤマハとNuvotonのセンサーフュージョンが始動。その第一弾としてNano120が採用。

複数のセンサーからのデータを統合した「センサーフュージョン」が注目を集めている。3軸地磁気センサーなどを開発/提供しているヤマハは、自社の3軸地磁気センサーとNuvotonテクノロジー(以下、Nuvoton)のARM® Cortex™-M0マイコンであるNano120を活用したセンサーフュージョンをシステムとして提供している。ここでは、両社の取り組みをはじめ、数あるARMマイコンの中でも、なぜNano120を採用したのか、その理由を聞いた。

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センサーフュージョンに向けたソリューションを開発/提供

システムの付加価値を高めることはもちろん、制御の高度化を図るといった目的から、組み込みシステム製品で多くのセンサーが搭載されるようになってきた。「複数のセンサーが搭載された場合、キーとなるのがセンサーフュージョンです。個々のセンサーから得られたデータを組み合わせることで、より精度を高めたり、個々のセンサーを補正する技術が不可欠となります」(ヤマハ秋本氏)。

ヤマハは、センサーフュージョンに向けたソリューションを開発/提供している。3軸地磁気センサー「YAS532B」に加え、ジャイロセンサーや加速度センサーを搭載。それらのコントローラとしてNuvotonのARM Cortex-M0マイコン「Nano120」を採用し、インテリジェントに組み合わせたものが、両社の取り組むセンサーフュージョンシステムだ。

「最近のスマートフォンでは、電子コンパスや加速度センサー、ジャイロセンサーなどを統合し、アプリケーションプロセッサでセンサーフュージョンを行っています。一方、Windows 8タブレットなどでは、比較的消費電力が大きなプロセッサを搭載しているため、マイコンと各種センサーを統合したセンサーフュージョンをメインプロセッサの前段に置いて低消費電力化を図るようにしています。これにより、センサーを常時動作させ、ユーザーの動きを検知するなどの活用が可能になります」(秋本氏)。「消費電力が大きなプロセッサを搭載したタブレットでは、センサーフュージョンをマイコンで行うことにより、センサー動作中でもメインのプロセッサをスリープさせることができ、低消費電力化に貢献できます」(ヤマハ川嶋氏)。

ちなみに、タブレットなどの製品でWindows 8認定を取得するには、9軸のセンサーフュージョンシステムとして、3軸加速度センサー、3軸ジャイロセンサー、3軸磁気センサーを搭載する必要がある。これに加えて環境光センサーも必要になる。現に、マイクロソフトはWindows 8に向けたセンサーハブソリューションを公開している。「センサーフュージョンのためのWindowsフレームワークが整備されており、それに従うことで機能を実現することができます」(川嶋氏)。今回のヤマハもWindows 8向けソリューションとして、Nuvotonと組んだという。

ハードディスクの薄膜磁気ヘッドで培った技術を活用

ヤマハは、多くの半導体製品をラインアップしているが、1990年代にはハードディスクの薄膜磁気ヘッドを開発/生産していたという歴史もある。「ヤマハの磁気センサーには、ハードディスクの薄膜磁気ヘッドで培った技術が活かされています」(川嶋氏)という。一般に磁気センサーには、MR(磁気抵抗)効果、ホール効果、MI(磁気インピーダンス)効果によるものがある。ヤマハの磁気センサーは薄膜磁気ヘッドの技術を応用し、MR効果を採用して開発・生産されている。

「ヤマハの独自技術であるモノリシック構造によって、単一ウエハ上に3軸の地磁気センサー素子とCMOS回路を生成しており、小型化と生産効率性を両立しています。さらに、ASICの最適化により1.8Vの低電圧動作と1msという高速な測定時間を可能としました。1msは、実際にコマンドを投げてから測定値を得るまでの時間です」(川嶋氏)。

「センサーは測定時に大きな電力を消費するので、測定時間が短ければそれだけ有利になります。他社では5〜7倍程度の時間がかかる場合が多く、それと比べると如何に優れているかが分かると思います」(秋本氏)。

ヤマハは現在、最新の3軸磁気センサーとして「YAS532B」を提供している。これは、従来品と比較して実装面積比で56%減、150%のダイナミックレンジの拡大、さらなる高精度化や低消費電力化を実現しているものだ。ダイナミックレンジを拡大することで、システム内部の他の部品から磁界の影響を受けにくくなる。そのため、磁気センサーレイアウトの自由度を上げることが可能だ。さらに、従来品と同様に独自アルゴリズムを用いたオートキャリブレーション・ソフトウェアも用意している。

システム内部では、地磁気の信号よりも周辺部品が発する磁界がはるかに大きく、またそれがいつ変動するか分からないという状態だ。それらを補正するために、部品からの磁界を1%以上の精度で見積もり、測定結果から差し引いて地磁気分だけを抽出する必要がある。このプロセスをキャリブレーションと呼んでおり、磁気センサーを使う上では、必要不可欠なソフト処理となっている。加えて、NFCコイルなどの磁性体材料によるソフトアイアン効果に対する補正処理を行うことが可能で顧客に対して設計柔軟性の高い提案を行っている。「さらにヤマハでは、各種OS向けドライバーのタイムリーな提供、地磁気センサーチップ実装に関する技術サポートなど、お客様の要望を捉えながら設計負担の軽減をサポートしています」(秋本氏)という。

最適なバランスを有するNuvoton「Nano120」を採用

ヤマハでは同社のセンサーフュージョンに、Nuvoton「Nano120」の採用を決めた。「センサーフュージョンを開発しようとしたとき、台湾のお客様からNuvotonをご紹介いただきました。そこで、コードサイズや要求処理能力などを台湾のNuvoton本社と打ち合わせたところ、Nano120であれば最適なソリューションを提供できるということでした。スペックが高いマイコンを探せばキリがなく、Nano120はスペック、サイズ、コストも最適なバランスを持っていたので採用しました」(秋本氏)という。川嶋氏は、「センサーフュージョンを行うマイコンを探していたとき、各社のCortex-M3マイコンを評価していました。しかしCortex-M3では、処理能力とサイズや価格面のバランスが悪く、Cortex-M0マイコンをベースに探すことにしました。Cortex-M0というとNuvotonというイメージがあったのも、そのきっかけでした」という。

Nuvotonは、8ビットの8051、32ビットのNuMicro Family、NUC500およびNUC700、さらにNUC900という製品ラインアップを持つ。NuMicro Familyは、Cortex-M0をコアに持つマイコンシリーズで、現在126品種をラインアップしている。ウィンボンド小野氏によると「これだけのCortex-M0マイコンをラインアップしているのは、Cortexシリーズの中でも初めからCortex-M0にフォーカスしてきたからです。これからも、さらにラインアップを拡充する予定です」という。

Nano120は、Nano100 Base Lineの基本機能に加えUSB2.0フルスピードを内蔵したものだ。「いずれも1.8V~3.6Vの単一電源で動作することから、使い勝手は抜群です。しかも、超低消費電力のためバッテリ駆動システムに向いています。ペリフェラルとしてはI2C、12ビットのADコンバータやDAコンバータなどを内蔵しています」(ウィンボンドワギー氏)。「もともとNuMicro Familyは、センサーフュージョンを意識していませんでした。ヤマハのセンサーフュージョンに向けて、33ピンのQFNパッケージを急遽ラインアップしたという経緯があります」(小野氏)。「お客様に見せたとき、『うわぁ!小さいね!』という感想をいただいています」(秋本氏)。

Nuvotonのライブラリをベースにファームウェアを効率良く開発

ヤマハは、Nano120のインタフェース機能としてUSBとI2Cを活用したという。「Windows 8では、センサーにおけるUSBドライバーが用意されており、ドライバーに手を入れることなく実装することができますが、電力面では問題が残ります。一方、I2Cは低消費電力で動作しますが、BIOSへのデバイス登録などソフトウェア上の大変さがあります。ヤマハとしてはUSBとI2Cという複数で接続するためのソリューションを持っていた方が有効であると考え、Nano120のそれら機能を活用しています」(川嶋氏)。

さらにタイマーも活用した。ホストプロセッサ側のタイマーは、複数のタスクが同時に走ると揺れることがある。「センサーフュージョン側のマイコンは基本的に閉じているので、タイマーの時間が正確です。センサーの周期読み取りが正確であるばかりでなく、複数のセンサー値を同期して取得する際にもメリットがあります。特にセンサーフュージョンの性能は、センサーデータの同期性にも大きく関わってくる部分であり、この辺りはNano120の強みといえます。ヤマハのセンサーフュージョンは予測、更新という高度な演算プロセスを行っており、低遅延な姿勢出力を得ることができます。タイマーの正確さは、予測の確度に直結します」(川嶋氏)。

Nano120は有用なペリフェラルをいくつも持っているが、小野氏はその数ではなく、バランスを強調する。「センサーフュージョンには、リッチなペリフェラルとかハイパフォーマンスといった、いわばハイスペックなマイコンは向きません。タイマーの数や精度、コストやパッケージサイズ、もちろん実績も大切です。たとえば、タイマーの数はちょっとゆとりのある方が、機能を追加しやすくなります。しかし多すぎてもコストアップになるため、やはりバランスが大事ですね」(小野氏)。

NuvotonではCortex-M0の出荷数がまもなくリリースからの累計で5,000万個に達しようとしている(2013年7月現在)。「ここまでCortex-M0を出荷しているベンダーは他にありません。バランスの良い仕様を設計してきたという実績は、注目していただきたい」(ワギー氏)という。

ヤマハはNuvotonからのサポートも高く評価している。「タイマーの使い方など多くの技術的なサポートを受けました。また、Nuvotonのライブラリをベースにして、センサーフュージョンのファームウェアを効率良く開発することができ大変助かりました」(川嶋氏)。開発期間は、前述のCortex-M3マイコンでのベースがあり、Cortex-M0のNano120でも実装に時間はかからなかったという。これは同じARMアーキテクチャならではの利点だ。

ヤマハとNuvotonとの、まさしくフュージョン

今後の展開として秋本氏は、「地磁気センサーは、さらなる小型化、ダイナミックレンジの拡大、さらにノイズフィルタの装備などを考えています」という。また、多軸化も考慮している。「まずは地磁気センサーに加速度センサーを搭載した6軸チップ、将来的にはジャイロセンサーを加えた多軸センサーのための要素開発も行っています」(川嶋氏)。多軸化は、ヤマハならではのモノリシック構造だから可能になる。

さらに、ボイスコマンド機能の取り込みも考えているという。「音声検知も常時起動させておきたい機能です。センサーフュージョンと合わせて提供できれば、スマートフォンなどの使い勝手が向上します」(秋本氏)。「今回の事例は、まさしくヤマハとNuvotonのフュージョン(融合)です。まずはその第一弾がスタートして製品化が始まりました。次のステップとして、パッケージサイズの小型化や、コアの性能向上に関わる部分です。例えば、コアの動作周波数は十分かどうか、などです。また、プログラムサイズにも関係しますが、内蔵のRAMとフラッシュメモリのサイズなど、これはお客様と調整していく部分でしょう」(小野氏)。

最後に小野氏は、「最近はスマートフォンやタブレット以外の製品分野でご興味をお持ちのお客様が増えていることから、センサーフュージョンがもたらす新しいアプリケーションの広がりに期待しています。センサーというハードウェアを作る技術と、センサーフュージョンとしてのアルゴリズムを作るソフトウェア技術に、NuvotonのARMマイコンと設計・製造能力が貢献することで、さらに発展させていくことが、一つの目指すべき方向性です。日本の技術と親日国である台湾の技術が、確かなフュージョンとして繋がっていくことこそ、私たちの理想とする世界です」とまとめた。