秒間32兆回の演算で日本の課題を解決。Jetson AGX Xavierがつくる、AI製品成功までの確かな道筋。

CPUやDSPに比べて圧倒的なコア数を有する「GPU」。このGPUの性能を日々進化させることにより、クラウドからエッジまで、世界中のシステムに革新を起こしてきた「NVIDIA」。そして、2018年12月に発売された、組み込みシステムにAIを統合するためのプラットフォーム「NVIDIA Jetson AGX Xavier」。IoT×AIが始まる今だからこそ、NVIDIAが考えるAIの在り方は大きな羅針盤になる。ブームだけではない、本質的なAIをテーマに、豊富な事例を交えながら最新情報と将来的な展望をNVIDIAに聞いた。

メインイメージ
集合写真(左より)
エヌビディア インダストリー事業部 事業部長 齋藤 弘樹 氏
エヌビディア フィールドアプリケーションエンジニア 小室 正明 氏
エヌビディア インダストリー事業部 ビジネスデベロップメント マネージャー 大岡 正憲 氏
エヌビディア インダストリー事業部 ビジネスデベロップメント シニアマネージャー 鈴木 紀行 氏

スーパーコンピュータの性能を、組み込み製品でも実現したNVIDIA。

――NVIDIAの製品は様々なシステムに搭載されています。

齋藤:まず、NVIDIAでお馴染みの製品はゲーミング分野の「GeForce」です。esportsの人気もあり、今も右肩上がりで成長し続けている分野です。ワークステーションには「Quadro」。製品開発に高度なシミュレーションを利用するCAE(Computer Aided Engineering)をはじめ、医療分野や放送分野など、プロフェッショナル用途のコンピュータ製品に搭載されています。現在、急成長しているディープラーニングやクラウド、HPC(High-Performance Computing)分野に向けては「Tesla」を提供しています。「DGX」という、Teslaを複数搭載したシステムもラインアップとして提供しています。そして、2014年から組み込み向けプラットフォーム「Jetson」の提供を開始しています。

――組み込み分野へ進出した理由を教えてください。

齋藤:常にコネクティッドな製品はクラウドから実行していくことができますが、車の自動運転はそういうわけにはいきません。車をはじめとする様々なデバイス、つまりエッジのインテリジェント化が必要になります。

――NVIDIA製品が活躍しているAIアプリケーションを教えてください。

齋藤:NVIDIAの技術が、どのようなAIを実現しているのかについては、NVIDIA.comやYouTubeの「I AM AI」の動画をご覧ください。この動画では、自身で判断できる医療機器、駅の構内から迷子を探し出すシステム、森の中でも自律飛行できるドローン、ロボットタクシー、ピアノを弾くことのできる繊細なロボットアームや、DENSO様のタオルを優しく畳むロボットなどを紹介しています。

――どのように活用されているのでしょう?

齋藤:AIには、物事を覚える「学習」と、活用する「推論」のフェーズがあります。NVIDIAの最新製品を使っていただくことにより、特に処理量の多い「学習」を高速化できます。画像処理用のニューラルネットワーク、Residual Network(ResNet)の学習時間を2週間から6.6分まで短縮した例もあります。学習を速くすることにより、学習→検証→調整→再度学習→最後に最適化して実装、というAI開発のサイクルのスピードが全く違ってきます。学習のフェーズを高速化できるNVIDIAのGPU製品が、世の中の研究開発に貢献している。これについては異論はないと考えています。

――機械学習の業界標準ベンチマーク「MLPerf」で、AI 性能において 6 つの最高記録を樹立した、というニュースが2018年12月にありました。これはGPUの革新によるものですか?

齋藤:このベンチマークの計測には、世界でもっともパワフルな AI システムである 「NVIDIA DGX-2」 など、ディープラーニングやデータサイエンスに最適なNVIDIAのDGXファミリーが使われました。DGX-2には、データセンター向けの最新のGPU、「Tesla V100」が搭載されています。NVIDIAでは、GPUを開発するだけではなく、GPU間およびGPU/CPU間の通信を高速かつ広帯域で接続するための独自の高速インタフェース、「NVLink」も開発しています。DGX-2にはTesla V100が16基搭載されていますが、GPU間の接続には、NVLink用の新開発のスイッチチップであり、300GB/sの高速な通信を実現する「NVSwitch」という技術が活用されています。このように、GPUだけでなく、周辺の通信を含めたハードウェアも開発し、高速化を実現しています。

――ソフトウェアへの取り組みはありますか?

齋藤:ソフトウェアにも投資をしています。ディープラーニング向けのフレームワークには、TensorFlowやChainer、PyTorchなど様々な種類がありますが、NVIDIAは主要なフレームワークのほとんどをGPUに最適化しています。またフレームワークとGPUの間にある、cuDNNをはじめとする豊富なライブラリもNVIDIAが開発し、日々アップデートすることで、アプリケーション全体を高速化しています。

手のひらサイズのデバイス上で、多数のAIを同時に実行できる。

――Jetsonは、どのような製品ですか?

齋藤:GTC Japan 2018にてAGX(Autonomous GPU Accelerated System)ブランドも発表し、そのブランドを代表するJetsonの最新製品「Jetson AGX Xavier(エグゼビア)」は、自律動作マシンを作るためのプラットフォームです。開発者キットを2018年9月、モジュールを12月に発売しました。

大岡:現在のラインアップとしては、2016年にリリースしたJetson TX1、2017年リリースのJetson TX2 8GBとJetson TX2 4GB、そして最新のJetson AGX Xavierとなっております。

――どのように使い分けると良いでしょうか?

齋藤:新規開発にはXavierをお勧めしています。Xavierの誇る高い性能は、自律動作マシンを実現するには最適です。もし、画像認識だけに利用したい、といった限定的な用途であればTX2が適しているかと思います(図1)。

図図1:NVIDIA Jetson AGX Xavier (左)と、NVIDIA Jetson TX2(右)。

――Xavierの特徴を教えてください。

齋藤:Xavierは、Arm® 64bit CPUの周りに、高速な演算器であるTensorコア、CUDAコア、ビジョンアクセラレータ、ディープラーニングアクセラレータ(NVDLA:NVIDIA Deep-Learning Accelerator)を搭載したデバイスです。NVDLAは、画像解析で使われるCNN(Convolutional Neural Network)を処理するための専用ハードウェアです。これらがすべて同時に動作します。そのため、アプリケーションに必要となる様々な処理を、最適なアクセラレータに割り当て、空いたGPUリソースを使って別のことができる。色々なユースケースに対応でき、32TOPS(Tera Operations Per Second)という驚異的な性能を誇る製品です。

――そこまでの性能が必要なのでしょうか。

鈴木:例えば、デリバリーマシンなどは、カメラや大量のセンサーの入力を使って、物体を検出しながら、マッピングして、ローカライズして、同時に走行経路の探索をします。様々な処理が同時に走って、初めてデリバリーマシンとして機能します。つまり、1個の製品に複数のニューラルネットワークの搭載が必要な時代となっています。そのためNVIDIAでは、自律走行ロボットの目標性能を20TOPSと見ています。IVA(Intelligent Video Analytics、映像解析)には30TOPS、産業用ドローンも20TOPS程度が必要となるでしょう。

――製造業、Industrial IoTの分野はどうでしょう?

大岡:私は製造業(FA=ファクトリーオートメーション)で使われるAIを担当しています。第4次産業革命の今、センサーデータを用いたAIでの予知保全の実用がはじまっています。また、自動検査装置に必要な目標性能は15TOPSを超えています。商品の外観をカメラで検査しながら、同時にそのほかのセンサーデータを用いて、マルチモーダルなAIで高度な検査を実現していくようになるでしょう。

日本の産業界が抱える課題を、NVIDIAとパートナーが見事に解決。

――日本での採用事例を教えてください。

大岡:日本国内でも既に多くのお客様がJetsonを活用されています。一例を挙げると、自動車のギアを製造されている武蔵精密工業様が、Jetson TX2を活用されています。武蔵精密工業様の製品は、安全に関わる重要な部品ですので、細かなキズも許さない高精度な検査体制が必要です。従来は、職人が目視でキズを検査していましたが、機械で効率的に進めたいということでAIの活用に至りました。カメラ、ロボット、PLCを組み合わせ、Jetsonで解析することにより、開始からわずか4カ月で97%の検査精度を達成しています。

――海外にも展開できそうですね。

齋藤:日本の産業が抱える課題のひとつに、労働人口の不足があります。ですから、人の目に代わるカメラ、人の脳にあたるAIは、分野を問わず、今後ますます必要となるでしょう。国内工場と海外工場の品質の均一化にも貢献できますので、場所を問わずに高品質な製造ができる時代になりつつあります。

――協業などの動きはありますか。

大岡:製造業においてはファナック様と2016年に協業を発表しました。AIの導入によって知的な生産ラインを作るためのファナック様の産業用IoTプラットフォーム、「FIELD system」にNVIDIA の GPU とディープラーニング向けのソフトウェアが活用されています。AIを使って製造業を変えていきたいと考える企業は非常に多く、2019年現在、400社以上が参加するプラットフォームに成長しています。

齋藤:エッジ側でAIが動作しはじめると、システム全体、工場全体には、さらに高度な機能が求められます。FIELD systemでは、フォグ(クラウドとエッジの中間)にもコンピュータを配置することで、様々な機械を接続しながら、工場全体もインテリジェント化しています。

――取引企業は今後も増え続ける、と。

齋藤:例えば、Jetsonをご活用いただいているお客様は、ワールドワイドで今、約1,500社以上います。日本国内でも、コマツ様、キヤノン様、川田テクノロジーズ様、ヤマハ発動機様など、多くのお客様がいます。とはいえ日本国内だけでも開拓できる領域はまだまだ広がっていますので、今後の動きは我々も楽しみにしています(図2)。

図図2:日本のロボティクスと AI IoT のリーダーとのパートナーシップ。

――「GPUは電力が大きい」と言われていますが、Jetsonを適用しにくいアプリケーションはありますか。

齋藤:Jetsonは非常に省電力な製品です。Xavierは 32TOPSという性能でありながら、15W~30Wの電力しか消費しません。多くの方に驚かれますが、実はワット数あたりの処理能力としては、桁違いの実力を秘めています。ですから、電力源の確保の難しいアプリケーションにも採用可能です。実際、ヤマハ発動機様は、陸・海・空、それぞれの環境へ向けた自律動作のためにご採用頂いております(図3)。

図図3:NVIDIA Jetsonを採用したヤマハ発動機様の無人システム。

――インテリジェントなカメラも増えていますね。

鈴木:はい。IVAの領域では顔認証などのセキュリティが有名ですが、活用事例の中には、コンビニエンスストアに設置した30個のカメラを、たった1台のXavierで解析し、年齢や性別などのメタデータを生成し、マーケティングに取り入れるといったシステムもあります。監視カメラにJetsonを内蔵することもできますので、リアルタイム解析機能を持った高付加価値なカメラも実現できるでしょう。小型で超低消費電力というメリットにより、街中至るところにAIを配置できます。現在、NVIDIAでは「Metropolis」というエコシステムを立案し、街をインテリジェント化、暮らしを豊かにする活動を始めています。物流やインフラに携わる世界中の企業に参画いただいている、非常にエキサイティングなプロジェクトです。

――他、Jetsonを産業界に浸透させるための取り組みについて教えてください。

大岡:Jetsonは、ロボティクスの業界で広く使われているROS(Robot Operating System)の使用も可能です。そのため、従来の知見や開発資産も活かしながら、AIを取り入れたアプリケーションを開発できると思います。

小室:クラウドやサーバー上で学習させたAIを、組み込み分野、つまりJetson用に変換し最適化するTensorRTというツールも提供しています。是非ご活用ください。

NVIDIAのAI製品を、ビジネスに取り入れる方法とは。

――AI、ディープラーニングという単語は聞くようになりましたが、実際のビジネスへどう取り入れるべきか悩んでいるユーザーも多いと思います。

小室:まず、AIがどういう技術かを知ることが大切です。AIを知ることにより、自分が抱えている課題や、諦めていた問題が解決できるかもしれない、といったモチベーションが生まれ、ビジネスへ繋がります。毎月開催しているイベント「NVIDIA JETSON Meet-up」では、最新製品の紹介や、実際に採用されたお客様のトークセッションなどを実施しています。

――ハンズオンも開催されていますね。

小室:ハンズオンでは、AIとはどういうものかを体験することと、実際に使う手順を習得することができます。ビジネスへ応用いただくには、ハンズオンを通して知ったキーワードを手掛かりに、書籍などを活用して技術を理解していただくことが重要になります。手順と技術を反復して理解することで、ディープラーニングの仕組みを習得できますので、AIをより活用できるようになると思います。

――開発環境について教えてください。

齋藤:スムーズにJetsonを導入いただけるよう、NVIDIAではSDKにも投資をしています。JetsonのSDK「JetPack」には BSP(Board Support Package)、OS、開発を支援する様々なライブラリが含まれています。ハードウェアを最大限に活用できるようにチューニングが済んでいますので、非常に使い勝手の良い、導入しやすいSDKに仕上がっていると思います。

――その他、オススメの教材はありますか。

齋藤:NVIDIA主催のAIカンファレンス、GTC Japan 2018にて、クラスルーム形式のワークショップを開催しました。また、「NVIDIA Deep Learning Institute」というオンライントレーニングも提供しています。ディープラーニングを基礎から学び始めることができますので、是非、AIに興味のある方はNVIDIA.com内にあるDLIのページをご覧ください。

――ビジネスユーザーだけでなく、将来を担う学生に向けて、何かメッセージをいただけますか。

齋藤:近年は、つくばチャレンジやロボカップなど多くのロボットコンテストが開催されています。こうした大会に参加する学生の方にも、Xavierをおすすめしています。卒業後もAIを実装した経験は必ず活きてきます。是非チャレンジしていただきたいですね。また、各大学との連携や、学生に向けた様々な支援も行っています。

――最後に、NVIDIAのビジョンについて。

齋藤:NVIDIAがJetsonのターゲットとしてIVA、FA、ロボティクスにフォーカスしているのは、これらの技術が日本の未来に貢献できる、と考えているからです。日本が抱えている課題に対して、NVIDIAが何を貢献できるのかについて、今後も意識しながら取り組んでいきたいと考えています。

――ありがとうございました。

APS EYE'S

NVIDIAが、AIの頂点に君臨していることに異論はない。GPUという1アーキテクチャを突き詰めたNVIDIAがリリースした組み込みAI向けデバイス「Jetson AGX Xavier」は、GPGPUに加えて、様々なAIアプリケーションを最適に実行できるアクセラレータを多数搭載しながらも、驚異的な低消費電力を誇るデバイス。世界中の組み込み業界がJetsonを採用し、AIビジネスを推進している今、日本のエンジニアにも同じスピード感と技術力が求められている。ディープラーニングという新世代のインフラをどのように活用するか。課題をどのようにブレークダウンするべきか。本質的なAIの理解と開発を、今日からはじめよう。こて先だけのAIでは、チコちゃんに叱られますよ。