フリースケール独自技術を搭載したARM製品を多数ラインアップ

フリースケール・セミコンダクタ(以下、フリースケール)は、独自コアとしてPower Architecture製品やColdFireなど有数のCPUを持つ半導体メーカである。これらに加え、ARMコアを搭載した製品として既に多くの実績を誇るi.MXはもとより、汎用マイコンとしてKinetis(キネティス)とプロセッサとしてVybrid(バイブリッド)をラインアップに加え、さらなる拡充を図っている。ここでは、ARMコア搭載マイコンの概要や位置づけ、エコシステム、サポート体制などを聞いた。

メインイメージ

2001年からi.MXにARMコアを採用

i.MXは、高性能コアを搭載したアプリケーション・プロセッサで、すでに6世代目に入り、多くのアプリケーションへの採用実績を持つ。初代のi.MXは、2001年に登場しARM9コアを搭載しており、PDA(Personal Digital Assistant)などへ採用された。最新のi.MX 6は、2011年に登場したものでCortex-A9を搭載している。スマート・モバイル・デバイス、ポータブル・メディアプレーヤ、医療機器といった民生用および産業用製品に加え、Automotive Electronics Council(米国車載電子部品評議会)のAEC-Q100認証を取得した車載用製品も取り揃えている。 i.MX508は、他社ARM製品には搭載されていない電子ペーパーのコントローラを内蔵しており、国内外で多くの電子書籍リーダへ採用されている。「メディアタブレットと電子書籍端末への搭載数は、IDCの2011年の調査で世界第2位となっています。」(大林氏)。

Cortex-M4やCortex-M0+を搭載した「Kinetis」

ここからは、最新の汎用マイコンであるKinetisシリーズを見てみよう。Kinetisは、ARM Cortex-M シリーズではもっとも新しいコアであるCortex-M4やCortex-M0+を搭載している。Cortex-M0+を搭載したLシリーズから、Cortex-M4を搭載したKシリーズとXシリーズをラインアップしている。「マイコンは国内メーカが強いのですが、Kinetisは外資であるフリースケールからの逆襲という意気込みを持っています。ARMマイコンで300品種以上というNo.1のラインアップを取り揃えました」(古江氏)。 KinetisのベースとなるのがKシリーズである。ARMのCortex-M4を搭載したものでクロック数が50MHz~150MHzで動作する。K10~K70の7のファミリを持つ。フリースケール独自の拡張として、キャッシュメモリによる高速な信号処理、DRAMコントローラの内蔵、内部バスの衝突を防いでマルチタスク処理を可能にするクロスバ・スイッチ、最大32チャンネルのDMAコントローラ、多様な省電力モードおよびスタンバイからの高速ウェイクアップなどがある。内部バスはマイコンのパフォーマンスに大きく影響する。「クロスバ・スイッチを搭載したことで、AMBAバスを搭載したマイコンよりもパフォーマンスを向上させています」(古江氏)。 さらに、ファミリにもよるが、デバイス充電検出機能を備えたフルスピード/ハイスピードUSB 2.0 On-The-Go、ハードウェア暗号化、タンパ検出、オペアンプ、トライアンプ、SDHCコントローラ、タッチセンサやグラフィックコントローラなど豊富なペリフェラルを内蔵しており、外付けパーツを減らすことができる。 既に音声処理やボイスレコーダ、プリンタ、オーディオ・アクセサリ、インダストリアル業務用機器など、多彩なアプリケーションに採用されている。

ARMと共同開発したCortex-M0+

Kinetis Lシリーズは、Cortex-M0+を搭載したマイコンである。「Kinetis Lシリーズに搭載したCortex-M0+は、割り込み性能の強化などCortex-M0の性能を改善しようとフリースケールとARMで共同開発したものです」(古江氏)。 さらに、Lシリーズは、超低消費電力、低価格、豊富なパッケージなどの特長を持つ。超低消費電力の実現に寄与しているのが、フリースケール独自の低リーク90nm TFS(薄膜ストレージ)フラッシュ技術である。また、オンチップのFlashメモリサイズの幅広い選択肢、アナログ、コネクティビティ、ヒューマンマシン・インタフェースの幅広いペリフェラルオプションにより、多様なアプリケーションの処理能力の強化が可能になる。 Lシリーズのターゲット・アプリケーションは、ポータブル医療システム、オーディオ・システム、小型家電製品、ゲーム・アクセサリ、スマートメータ、照明、電力制御など、従来8/16ビット・クラスのマイコンが担っていた幅広い分野だ。量産は、2012年末からの予定である。 Kinetis Xシリーズは、Cortex-M4を搭載しており、クロック数200MHz動作などKinetisシリーズのなかでも最高レベルのパフォーマンスとなっている。「高性能なペリフェラルに加え、最大4Mバイトのフラッシュメモリや512KバイトのSRAMの搭載をはじめ、外部メモリの拡張性を備えており、多くのメモリが必要となるプリンタなどがターゲット・アプリケーションとなります」(古江氏)。さらに、デジタル・サイネージ、医療機器、POS、産業オートメーション、産業用計測器やテスタ機器など、比較的高機能なシステムがターゲットとなる。

非対象デュアルコアARMプロセッサ「Vybrid」

Vybridは、Cortex-A5とCortex-M4の2つのARMコアを搭載した非対象デュアルコアのプロセッサである(Cortex-A5だけを搭載した製品もある)。Cortex-A5はARM7やARM9の後継コアで、いま一番新しいARMコアのひとつである。 Cortex-A5を500MHzで動作させ、Cortex-M4を167MHzで動作させており、DDR3やNANDフラッシュのメモリコントローラを搭載している。さらにOpen VGグラフィックスエンジンを用意しており、2D/2.5Dグラフィックを搭載するなど多様なアプリケーションに対応する。「i.MXは、タブレットやマルチメディア端末、カーナビゲーション・システムといった3Dグラフィックスまで対応できますが、Vybridはその少し下で2Dでもリッチな表示が求められるアプリケーションに向いています。さらにUSBやEthernetなども入っており、組み込みシステム向けの汎用プロセッサとして一通りの機能を押さえています」(古江氏)。 Cortex-M4でリアルタイムOSを動かし、Cortex-A5でLinuxやAndroidなどの汎用OSを動作させることで、汎用OSがクラッシュしてもリアルタイム動作の方に影響を及ぼさないシステムをシングルチップで構成できる。コア間の通信は、チップ内の共通メモリなどで行えるため、別々のチップで構成したシステムより高速に実行できる。「コントローラ系とアプリケーション系ではエンジニアのスキルが異なります。Vybridならそれぞれの資産や経験を活かした、いわば良いとこ取りのシステム構築が可能です」(安田氏)。 主な用途として、ヒューマンマシン・インタフェースやFA、POS、テスト/計測、医療、デジタルサイネージ、高機能マルチメディア端末、車載向けとしてエントリレベルのインフォテイメント、デジタル・メータ・クラスタなどが考えられる。量産開始予定は2012年末からとなっている。KinetisとVybridの関係は、比較的パフォーマンスが低めの分野をKinetisが担い、ある程度パフォーマンスが高い分野をVybridが担うと考えている。

ユーザとの付き合いのなかでパートナーを増やしてきた

マイコンを活用する上でポイントとなるのが、エコシステムが揃っているかどうかだ。「マイコンを全く新規に導入しようとするお客様は希で、多くは既存の使い慣れた環境で開発を実施したいと思っています」と安田氏は語る。その際、ユーザの窓口になることが多いのが販売代理店やパートナーベンダである。フリースケールは、代理店やパートナーとの協力に加え、代理店をトレーニングすることで、フリースケールと同じレベルのサポートを提供できるようにした。「代理店様が行っているオンサイトのセミナは、今年(2012年8月現在)だけでも200件以上にのぼります」(安田氏)。ちなみに、現在、東京エレクトロンデバイス、丸文、リョーヨーセミコン、アヴネットジャパンなどが主な代理店である。 フリースケールでは、リアルタイムOS、TCP/IPスタック、USB、ファイルシステム、オーディオ/ビデオ、GUI、ワイヤレス、IDEなど多くのパートナーと連携することでフリースケールのマイコン・ユーザをサポートしている。国内ベンダが大多数を占めている。古江氏は、「ここまで、パートナー様が増えたのは、お客様とのお付き合いのなかからです。お客様には単にマイコンを持っていくだけではダメで、OSはどこを使えばいいの?、ミドルウェアはどこがあるの?と、パートナーとの関係を聞かれます」。その声にお応えするためにパートナーの拡充にはもっとも時間を割いたという。

システムを柔軟に拡張できるTower System開発ボード

フリースケールは無料のリアルタイムOSであるMQXを提供しているが、国内では圧倒的にμITRONが強い。そこで日本の方針としてMQXは選択肢のひとつとして考えているという。パートナーベンダにも有力なμITRONベンダが多く、フリースケール自体もμITRONへの取り組みを強化している。「T-Engineフォーラムには昨年から参加し、今年から幹事会員になりました」(古江氏)。「基本は米国本社で作りますが、日本の組み込み市場に参入していくためには、日本市場に合ったエコシステムが必要だということで、国内の組み込み関連ベンダとその整備に取り組んできました」(大嶋氏)。 さらに、ハードウェアとして「Tower System開発ボード」を用意している。CPUボードとペリフェラルボードを分離することで、開発案件に最適な環境を手軽に安価に構築できるものだ。遊び心が感じられる見た目は、エンジニアの工作心をくすぐるものだ。「他社の場合、新しいCPUが出ると新たに開発ボードを作ることが多いのですが、フリースケールはそれをやめて柔軟性を持たせました。ペリフェラルのプログラム資産もかなり流用できるようになるなど多くのメリットが生まれました」(大嶋氏)。 Tower System開発ボードは、CPUボードとペリフェラルボードが基本セットとなる。さらにWi-Fi、LCD、メモリ、AD/DA、センサ、オーディオといったモジュールが多数用意されており、各ボードは最大3枚まで利用できる。「極めて安価なので、開発現場の隅々にまでお届けできるものとなっており、すでに各方面から高い評価をいただいています」(大嶋氏)。

「やめないメーカ」を続けていく

マイコンは供給体制もポイントとなる。フリースケールでは、長期製品供給プログラム(Product Longevity Program)として10年以上の供給をうたっており「やめないメーカ」(古江氏)と見られているという。ちなみに、車載や医療関連製品には15年以上の供給を約束している。「ARMマイコンはいろいろなメーカから提供されていますが、きちんと技術があって、独自性も出せて、製品を長期供給できているというとフリースケールとなります。今後も期待以上の製品を出し続けていきますので、ぜひフリースケールのARMマイコンを検討いただきたい」(古江氏)と語った。 「チップだけでなくARMマイコン開発向けのエコシステムが揃ってきており、本格的にARMの時代になってきたと思います。日本の組み込みシステムを支えるパートナーの皆様、フリースケールと一緒に強力なエコシステムをつくっていきましょう。ご連絡お待ちしています」(大嶋氏)。最後に安田氏は、「お客様と我々フィールド・エンジニアは長い付き合いになっていくと思います。ぜひARMへの第一歩を一緒に踏み出してみませんか」と結んだ。