i.MX 6をパイオニアがカーナビ/AVの心臓部に採用

パイオニアは、同社の海外向けカーナビ製品4 機種、車載DVD AV 製品1 機種、海外・国内向けAV 製品1 機種のメイン・プロセッサとして、フリースケールの「i.MX 6DualLiteプロセッサ」および「i.MX 6Soloプロセッサ」を採用した。従来、同社の海外向け車載製品には2系統のソフトウェア、OS、基板が存在し、これらを個別に開発していたが、今回、Android OSとi.MX 6シリーズを採用しこれらを1本化した。機能・性能についてスケーラブルな製品ラインアップを用意している点などがi.MX 6シリーズ採用の決め手になったという。ここでは、こうした車載製品開発の経緯を、企画や設計にかかわった担当者に話を伺った。

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海外向けを中心とする車載製品6機種にi.MX 6シリーズを採用

どのような製品にi.MX 6シリーズを搭載したのでしょうか?

パイオニア蛭田:北米、南米、アジア、欧州で販売している車載製品6機種にi.MX 6シリーズを搭載しました。機種はカー・ナビゲーション製品で、2014年1月に量産を開始しました。最上位機種は7インチの液晶モニタと静電容量方式のタッチパネルを搭載しています。その下の機種はタッチパネルが抵抗膜方式に、さらにその下の機種は液晶モニタが6.2インチに、というように機能差を持たせて価格を変えています。これらの製品には、2個のARM® Cortex®-A9コアを内蔵するi.MX 6DualLiteプロセッサを載せています。次の1機種は車載DVD AV製品です。7インチの液晶モニタと抵抗膜方式のタッチパネルを搭載したカーナビ製品からナビゲーションの機能を除いた構成になります。プロセッサの処理性能はカーナビ製品ほど必要ないので、Cortex-A9シングルコアのi.MX 6Soloプロセッサを載せています。最後の1機種は少し変わった製品で、iPhoneと組み合わせて使う車載製品です。6.2インチの液晶モニタと静電容量方式のタッチパネルを搭載し、Apple CarPlay™規格に対応しています。この製品のみ、日本国内でも販売しており、i.MX 6Soloプロセッサを搭載しています。

i.MX 6シリーズはどのような処理を実行していますか?

パイオニア蛭田:2DグラフィックスのGUI描画処理、ナビゲーションの地図情報処理、スマートフォン連携の通信・表示処理、USB/SDメモリに記録した動画ファイルのデコード処理、MIXTRAXと呼ぶ当社独自の音楽再生処理などを実行しています。スマートフォン連携では、車載製品がタッチパネルの座標情報をスマートフォンに送り、スマートフォンが転送した画面データを車載製品がデコードして、液晶モニタに表示します。2014年の機種はApple CarPlay™に対応していました。2015年の機種は、これに加えてAndroid Auto™にも対応しました。Android搭載のスマホをつないで、車載製品からコントロールします。これは、アフターマーケット向けカーナビ/AV DVD製品としては世界初※1です。MIXTRAXは、当社が開発した「ノンストップミックス再生」の機能で、楽曲を切れ目なくつなげて再生します。ちょうどクラブのDJのように、似た曲調や近いテンポの曲だけを自動選曲して、次々と切り替えていきます。従来は曲のテンポの解析をパソコン上で実行する必要があったのですが、プロセッサの性能が上がったので、車載製品の内部で解析処理を実行できるようになりました。

開発上の課題はありましたか?

パイオニア蛭田:今回の開発の大きなポイントは、それまでカーナビ製品とDVD AV製品で別の基板、別のOS、別のアプリケーション・ソフトウェアを使っていたところを一つに統合し、スケーラブルに使えるようにすることでした。当社が車載製品のOSとしてAndroidを採用したのは、今回が初めてです。2013年以前の機種では、ローエンドの製品にはITRONを、ハイエンドの製品にはWindows系の組み込みOSを使っていました。これを、Androidに1本化しました。

パイオニア西脇:従来のプラットフォームで新しい機能を追加しようとした場合、ITRON向けとWindows向けの両方のアプリケーション・ソフトウェアを開発する必要があります。しかし、製品の高機能化が進むにつれ、機能要求にソフトウェア開発が追いつかなくなっていきます。そこで、Android OSによるプラットフォーム統一を図り、製品企画に応じたラインアップを提案できるようになりました。

Androidとの相性とスケーラブルな製品群が企画意図に合致

製品開発の経緯を教えてください。

パイオニア西脇:新製品のコンセプトが決まり、共通に、そしてスケーラブルに使えるプラットフォームが欲しい、という話が企画部門から開発部門へ来たのは、2012年の夏ごろです。最初の3カ月は、どのような技術を使い、どのような構成でシステムを組んでいくのか、という検討を行いました。プロセッサが決まったのはこの段階です。実際のハードウェアで検証を始めたのは2012年の秋になります。フリースケールが提供しているi.MX 6シリーズの評価ボードSABRE(セイバー:Smart Application Blueprint for Rapid Engineering)を入手し、どのくらいの性能を期待できるのか、付属のBSP(Board Support Package)にどのような機能があり、どこまで使えるのか、などを検証しました。2013年の年明けに最初の試作が行われ、Android OSのポーティングとデバイス・ドライバの開発に着手しました。その後、数回の試作を行い、ライブラリやミドルウェア、アプリケーション・ソフトウェアの順に完成度を上げていきますが、Androidのおかげでハードウェアの完成度に依存せず開発することができました。

プロセッサの選定に影響を与えたアプリケーションはありますか?

パイオニア蛭田:例えばCarPlayの処理です。問題となるのはレイテンシでした。これは、ユーザーが操作した時の応答速度に影響します。性能の低いプロセッサでは間に合いませんでした。

以前からフリースケールのプロセッサを使っていたのでしょうか?

パイオニア蛭田:カーナビ製品本体ではないのですが、ヘッドアップ・ディスプレイの表示用に使ったことがあります。カーナビのメイン・プロセッサには、長らくルネサス エレクトロニクス社のSH系のプロセッサを使っていました。

なぜ、メーカーを変える必要があったのですか?

パイオニア西脇:今回、企画部門のほうでは、スケーラビリティのあるプラットフォームを実現するためにAndroid OSの採用が必須だと考えていました。Androidという視点で見たとき、スマートフォンやタブレットの世界をうまく取り込んでいかないと製品開発が成立しません。従来のカーナビ用LSIのメーカーに絞って検討していたのでは、適切な選択ができないと思いました。国内外のさまざまな半導体メーカーと協議した結果、最終的にi.MX 6シリーズを採用することにしました。海外向けの機種ということもあり、スケーラビリティを考えたとき、廉価な機種にも搭載できるプロセッサであることが条件となります。i.MX 6シリーズは車載向けに4コアのQuad、2コアのDualとDualLite、1コアのSoloの4種類※2が用意されていてスケーラビリティが高く、今回の企画意図に合っていました。

ソフトウェア開発はどのように進めましたか?

パイオニア西脇:ソフトウェアの階層ごとに開発の方法が異なります。Android OSのポーティングが完了するまでは、JTAGデバッガを使いプロセッサの動作状態を確認しながらデバッグします。当社ではARM純正開発ツールであるDS-5™を使いました。いったんAndroid OSが動き始めると、Android SDKに含まれるADB(Android Debug Bridge)が使えますので、USBやEthernet経由で試作機とパソコンを接続し、ソフトウェア開発環境が構築されます。ライブラリのようにLinuxカーネル上に実装されるプログラムについては、Linuxをインストールしたパソコン上で開発し、プログラムを試作機に転送して動作を検証します。また、試作機にはデバッグ用のシリアル・ポートが用意されており、パソコンからコマンドを送りながらデバッグすることも可能です。さらに上位のAndroid Runtime上で動いているアプリケーション・ソフトウェアについては、パソコン上のAndroid環境(エミュレーション)での開発がメインとなります。チームに1台程度、動作確認用のボードを用意する、といった具合です。

BSPのデバイス・ドライバはそのまま組み込んだのですか?

パイオニア西脇:使えるところはそのまま使いました。ただし、当社の製品はフリースケールの評価ボードと同じ構成というわけではありませんので、異なる部分はデバイス・ドライバ等のカスタマイズが必要でした。大きなカスタマイズ例としては、画面出力の部分です。スマートフォン(Android)では、画面出力は1系統が標準です。一方、当社が開発しようとしている車載製品は、画面出力が2系統必要になります。例えば、自動車の前席でカーナビの画面を、後席はAVエンターテインメントの画面を、というように異なる画面出力が要求されます。標準のBSPでは未対応であったため、フリースケールの助言をもらいながら当社でデバイス・ドライバのカスタマイズを行いました。

i.MXシリーズの採用で社内は大論争

プロセッサを国産品から海外メーカー製へ切り替えるにあたって、何か違いは感じましたか?

パイオニア西脇:良くも悪くも国内メーカーとは文化が違います。サポートは、国内販売代理店である丸文に間に入っていただきました。

丸文加藤:国内メーカーと比べると、サポートの違いはあると思います。そこは当社やフリースケール日本法人のメンバーが、お客様と話し合いながら一つ一つ問題を解決していくしかないと思います。

フリースケール大林:問題が起こった際、そこで立ち止まってしまうお客様もいらっしゃいます。幸い、パイオニアの技術者の皆さんは、自分たちでどんどん開発を進めていこう、多少のハードルがあっても自分たちで乗り越えていこう、という姿勢でした。パイオニアの皆さんは私たちをパートナーとして扱っていただき、一緒に開発していこう、一緒に製品を立ち上げよう、という感じで、プロジェクトを進めることができました。

海外メーカーのプロセッサを新規採用するにあたって、パイオニア社内では問題となりませんでしたか?

パイオニア西脇:いろいろと議論になりました。過去の経験やサポート実績から国内メーカーのプロセッサを推す人もいますし、戦略面からi.MX 6シリーズを推す人もいました。また、海外メーカーはビジネス・モデルが明確なので、意見も真っ二つに割れました。リファレンスのBSPは無償で提供されますが、動作保証はありません。世界中のユーザーからWeb経由でノウハウを入手するスタイルも国内メーカーと違う点です。当初は戸惑いましたが、開発の立場では「すぐに動くものがある」というのは魅力的でした。当社も日本企業なので、トップダウンでものごとが決まるわけではありません。このため、丸文には、我々の品質部門にも説明に回っていただきました。

丸文加藤:社内では「カーナビのプロセッサなのにフリースケール製品でいいの?」という声があったのだと思います。パイオニアさんは、自動車メーカーへOEM供給するカーナビ製品や車載オーディオ製品も開発しています。その意味で、高い水準の品質管理が要求されます。プロセッサの品質を懸念されるのは、当然だと思います。そこで、設計部門の方が理解していることを、製品化に関係する方々にも理解してもらうための場を設けていただきました。特に「フリースケールは自動車の制御系の半導体で実績があり、車載インフォテインメントについても自信があります」ということをアピールしました。

実際に品質上の問題は発生したのですか?

パイオニア西脇:デバイスのバグも含めて、大小さまざまな問題がありました。中にはチップ内の設計に起因する問題も見つかり、それをどういう形で収束させていくか、問題解決に向け根気よく付き合っていただき、一つ一つクリアして生産にこぎ着けました。チップの設計情報を明らかにしなければ解決できない問題は、フリースケールの米国本社と協議することもありました。ただ、最初からある程度覚悟して採用したこともあって、「思ったよりはきちんと対応してくれたな。意外とやるな」という印象です。初めての海外旅行じゃないですけど、多少トラブルのようなものがあるんじゃないかな、と思いつつも、そこを乗り越えて行かないと私たちも先がない、という危機感がありました。

豊富な周辺機能を備え、長期供給を保証

i.MX 6シリーズにはどのような特徴があるのでしょうか?

フリースケール大林:i.MX 6シリーズは2012年11月に出荷を開始しました。スケーラビリティを意識して、最初から5種類の製品(Quad、Dual、DualLite、Solo、SoloLite)を発表しています。2015年2月にはヘテロジニアスSoCであるSoloXを加え6種に広がりました。また、i.MX 6シリーズはそれぞれの信頼性保証レベル(Qualification)に応じた、車載機器向け/産業用機器向け/コンシューマ機器向けの製品を展開しています。i.MX 6シリーズの特徴は、豊富な周辺機能です。高速インタフェースとしては、PCI Expressや、Serial ATAが載っているラインアップがあり、産業用機器に使われています。豊富なマルチメディア機能は、タブレットやカー・ナビゲーションの用途で使われています。

丸文加藤:フリースケールは10年、15年の長期供給保証を行っています。そこを評価して製品を採用していただいているケースも少なくありません。

フリースケール大林:日本ではスケーラビリティ、コスト・パフォーマンスが評価されて、産業機器や教育用タブレットなどにも採用されています。今後は車載アプリケーションが一番増えてきます。

今後の製品開発の展開を教えてください。

パイオニア蛭田:当社としては、「コネクテッド化の実現」を成長戦略の軸の一つとしています。「車載機器」、「情報サービス」、「周辺機器」の三つを組み合わせてクラウドにつなぎ、コネクテッド・カー・ライフ市場を展開していきます。今後も力を入れていくのは、AV機器とカー・ナビゲーション機器の融合です。また、Androidなどのオープン・プラットホームへ先行して対応していきます。それから、スマートフォンやクラウドとの連携も推進します。

フリースケール大林:今後は複数のOS、複数のアプリケーションを1つのSoCで対応することが要求されます。車載で言うと「eコックピット」がよい例です。現在、i.MX 6シリーズを採用していただいているお客様に後継の製品を提供することはもちろん、新しい製造プロセスと、Cortex-A50シリーズなどの新しいコアを使って、新製品の開発も進めていきます。さらに、お客様がアプリケーションの開発に力を注げるように、ソフトウェアのサポートにも力を入れていきます。

丸文加藤:販売代理店の立場で、2〜3年後の製品開発を見据えて、お客様にフリースケールの情報と技術サポートを提供しています。また、半導体メーカーだけでなく、ソフトウェアを含めた技術力の優れたエコシステムパートナーも紹介していきたいと考えています。