NXPが産業&家電向けの「i.MX 8M」を発表。

NXP Semiconductors社(以下、NXP)は、民生用機器ならびに産業用機器や制御系の組み込み機器に向けた次期主力プロセッサとして、新たに「i.MX 8Mファミリ」を発表した。ARM® Cortex®-A53コアを1~4個、Cortex-M4Fコアを1個搭載する。ビデオ処理やオーディオ処理の機能を強化しており、4K60p解像度、HDR、H.265/VP9のビデオ・デコード、32ビット・384kHzサンプリング、ハイレゾ・オーディオ(DSD512)などに対応する。応用としては、OTT-STB、サウンド・バー、そして電子看板や監視カメラ、プロ向け音響機器、FA用制御端末などの産業用機器のほか、音声制御を付加したスマート家電にも利用できるという。

メインイメージ
集合写真(前列中央)
NXPジャパン株式会社 第二事業本部 マーケティング・アプリケーション技術統括部 マイクロコントローラ製品部 MPU担当マネージャー 大林 久高 氏
他、NXPジャパン株式会社の皆様

次期主力製品。多岐にわたるi.MXロードマップ。

携帯電話やゲーム機の市場で勢力を拡大したARMプロセッサが、産業用機器や制御系の組み込み機器に使われるようになって、およそ10年。比較的高い性能が求められる産業用機器には、現在、Cortex-A9コアを搭載したアプリケーション・プロセッサがよく使われている。

Cortex-A9コアをARM社が発表したのが2007年。半導体メーカー各社がCortex-A9コアを搭載したプロセッサを市場に出荷し始めたのが2011年前後。そろそろ、産業用機器を支えるハードウェア・プラットフォームの"次の本命"を探る時期に来ている。

NXP Semiconductors社は、Cortex-A9コアを搭載するアプリケーション・プロセッサ「i.MX 6シリーズ」を2012年から出荷し、FA用制御端末や監視カメラ、電子看板、HEMS機器、音響機器、教育用端末、電子書籍端末、カーナビなどで使われている。

同社はi.MX 6シリーズにおいては、既存製品とピン互換を保ちながらグラフィックス処理性能をアップしたi.MX 6DualPlus/i.MX 6QuadPlusと、Cortex-A9よりもコンパクトで新しいCortex-A7コアを採用し小サイズと低消費電力を実現したi.MX 6UltraLiteやi.MX 6ULL(Technical NOTE参照)を加えラインアップを拡充している。

さらにi.MX 7やi.MX 8といった製品を次々に発表している。省電力重視の携帯型端末向けに、Cortex-A7とCortex-M4Fコアを搭載したi.MX 7シリーズを2015年7月に発表し、Cortex-A72、Cortex-A53とCortex-M4Fコアを搭載したi.MX 8ファミリを2016年10月に発表した。このi.MX 8ファミリはシングル・プロセッサ上で複数のOSプラットフォーム対応を容易にし、主に車載デジタル・コックピットをターゲットにしている。

「産業用分野の顧客からは、『i.MX 6の後継がなかなか出てこないね』という指摘をいただきました。期待していただいているのに次の製品を紹介できない、という状態でした」(大林氏)。新たに2017年1月に発表した「i.MX 8Mファミリ」は、まさに現在、産業用機器や制御系の組み込み機器に使われているi.MX 6の後継に位置づけられるプロセッサ製品だ。i.MX 8Mはi.MX 6シリーズからCPUコアを一新し、ビデオ処理やオーディオ処理の機能を強化した。またインタフェースもグレードアップしている(表1)。

表1

表1:i.MX 6とi.MX 8Mの比較。

「他のSoCベンダーと同じように、NXPも自動車市場にフォーカスしているのでは? とよく言われます。しかしi.MXの出荷台数は、2015年も2016年も産業用と自動車用がおよそ半々です。i.MX 8Mの発表は、『自動車以外の市場にも力を入れていきます』というNXPのメッセージです」(大林氏)。ここでは、i.MX 8Mファミリの概要について説明する。

64ビット・コアを搭載、プロセッサを知り尽くしたNXPの解。

i.MX 8Mファミリの概要を図1に示す。メインCPUは1~4個のCortex-A53コアで、サブCPUとしてCortex-M4Fコアも1個搭載する。いわゆるヘテロジニアス(異種混載)なマルチコア構成のプロセッサになっている。

図1

図1:i.MX 8Mファミリの概要。

Cortex-A53はARMv8-Aアーキテクチャを採用したプロセッサ・コアで、従来の32ビット固定長のARM命令(A32)、16ビット長と32ビット長が混在するThumb-2命令(T32)に加えて、64ビット固定長のARM命令(A64)にも対応する。

Cortex-A53の動作周波数は最大1.5GHzである。Cortex-M4Fは、FPU(浮動小数点演算ユニット)を備えるローエンドのプロセッサ・コア(マイクロコントローラ相当)である。このコアは、省電力モード時の処理や、Cortex-A53上のコードとは独立に動かしたい処理、リアルタイム性が要求される処理などに利用することを想定している。

i.MX 8Mは、オーバーザトップ・セットトップボックス(OTT-STB)、デジタル・メディア・アダプタ、サラウンド・サウンド、サウンド・バー、A/Vレシーバといったビデオ処理やオーディオ処理を行う民生用機器をターゲットとしている。また、HMIと呼ばれる操作系を備える機器もターゲットの1つである。さらに高解像度・高画質のビデオを取り扱う電子看板や監視カメラ、医療用の画像処理装置、高音質が求められるプロ向けの音響機器、高い応答性能が必要なFA用制御端末や街頭・店舗の情報端末などが考えられる。

「i.MX 8Mファミリの名称にある"M"はStreaming "Media" Application向けプロセッサの"M"です。若い世代のテレビ離れが叫ばれる昨今、ストリーミング・ビデオ/ストリーミング・オーディオ機器へのユーザーのニーズが高まっており、i.MX 8M Quad/Dualがまさに市場要求にこたえる製品です」(大林氏)。Cortex-A53コアを4個搭載する「i.MX 8M Quad」と2個搭載する「i.MX 8M Dual」は、ビデオ・プロセッシング・ユニットをもち、4Kp60(Ultra HD)の解像度、高画質を実現するHDR、H.265やVP9(YouTube 4K)のビデオ・デコード、およびMIPI CSIのカメラ・インタフェースに対応している。

またオーディオ・インタフェースのチャネル数は20以上に対応し、最新のマルチチャネル・オーディオの要求を満たしている。I2S/SAIは32ビット、384kHzサンプリングに対応し、S/PDIF、HDMI ARC(Audio Return Channel)といったインタフェースを備えている。さらに、DSD(Direct Stream Digital)ネイティブ・インタフェースを搭載しており、通常のCDの512倍のサンプリング速度(22.6MHz)に相当する「DSD512」にも対応しており次世代のハイレゾ・オーディオに最適である。

GPUは最新のOpenGL ES 3.1、OpenCL 1.2、OpenGL 3.0、OpenVGとVulcanに対応する。

ビデオ機能を省いた4コア品に関心が集まる。

図1にあるようにi.MX 8Mファミリはコア数や周辺機能の異なる4品種から構成され、Cortex-A53コアが1個の「i.MX 8M Solo」ではビデオ処理とカメラ・インタフェースの機能が省かれている。

また「i.MX 8M QuadLite」というやや変則的な品種もある。これは、i.MX 8MQuadからビデオ処理の機能だけを省いたプロセッサである(MIPI CSIのカメラ・インタフェースは装備する)。「実は、QuadLiteに興味を示すユーザーが増えています。ビデオ機能は必要ないが4コアのプロセッサを必要としているアプリケーションが増えているようです」(大林氏)。

例えば、最近のオーディオの分野では、ホーム・シアタに使用する音響機器が取り扱うオーディオ信号のチャネル数が多くなっている。天井にスピーカを配置し、高さ方向を含む立体的な音響空間を作り出す。このような方式に対応した機器は、家庭用であっても十数チャネルのオーディオ信号を同時に処理しなければならない。アプリケーション・プロセッサの動作周波数が1GHzを超えるようになり、こうした処理方式が現実的になってきた。ある音響機器メーカーでは、オーディオ・インタフェース機器のA-D/D-A変換やエフェクタの処理を、すでにi.MX 6Solo上で実行しているという実績がある。

PCIe 2.0やUSB 3.0、GbEなど、高速インタフェースが充実。

i.MX 8Mのインタフェースを見ていこう。WiFi 11ac向けに2チャネルのPCI Express 2.0、2チャネルのUSB 3.0、1チャネルのギガビットEthernet、4チャネルのUART(5Mbps転送)、4チャネルのI2C、3チャネルのSPI、4チャネルのPWM、2チャネルのSDIO/MMCの各インタフェースを装備する。ディスプレイ制御回路は2系統用意しており、同時に二つの画面を制御できる。

ディスプレイ接続のインタフェースは、HDMI 2.0a(HDCP2.2準拠)とMIPI DSIに対応する。MIPI CSIカメラ・インタフェースは2チャネルを備える。外部メモリは、x32またはx16構成のLPDDR4/DDR4/DDR3(L)を接続する。これらのインタフェースを使用したシステムの接続イメージを図2に示す。

図2

図2:i.MX 8Mが備えるインタフェースの接続イメージ。

セキュリティ機能については、AES256などに対応した暗号化回路、セキュア・リアルタイム・クロック、暗号鍵格納用メモリ(eFuse)、乱数発生回路、32KバイトのセキュアRAMを搭載する。

パッケージの詳細は明らかにしていないが、i.MX 8M単体のFCBGA製品のほかに、i.MX 8MとLPDDR4メモリを積層するPOP(package on package)品も提供できるようにする。なお、i.MX 8M Dual、i.MX 8M Quad、i.MX 8M QuadLiteの間にはピン互換性があり、i.MX 8M Soloのみピン互換性はない。

OSは、Cortex-A53コアについてはLinuxとAndroid、Cortex-M4FコアについてはFreeRTOSを同社がサポートする。

i.MX 8Mプロセッサの出荷開始時期は、サンプル出荷が2017年第2四半期、量産出荷が同年第4四半期になる予定。評価ボードやBSPの提供は、プロセッサの量産出荷が始まる2017年第4四半期以降になるという。いずれの製品も発売開始から最低10年の供給体制が確保される長期製品供給プログラムの対象である。

次世代で必須UI。音声制御に注目。

スマート・ホームのコンセプトの急速な普及により、UIとしての音声制御のニーズが拡大すると予測される。実際に、米国ではすでに音声アシスタント・デバイスが大きな注目を集めている。こうした機器は宅内のさまざまな家電機器と連携し、それらを音声コマンドで制御可能にする。またその機能はスマート家電の操作にとどまらず、インターネット上の情報検索やECサイトでの商品購入、タクシーの配車依頼なども、音声コマンドによって指示することが可能だ。「音声アシスタントのアドバンテージは、同時にできることが増えることです。例えば、服を着替えながらその日の天気やスケジュールを確認したり、車を運転しながら近くのレストランを探したりすることができます。ユーザーは家などの静かな場所でも、学校や街などのノイズの多い環境でも同じレベルの認識率を期待するでしょう。NXPはあらゆるアプリケーションや環境に対応するよう、音声処理に適したi.MX 8Mから i.MX 6ULLの豊富なラインナップを揃えています」(大林氏)。

APS EYE'S

i.MX 8Mファミリは、ビデオ処理やオーディオ処理の機能を強化し、製品付加価値の向上を訴求。コアはもちろん、セキュアな機能も網羅し、IoTプラットフォームの最有力な候補になるだろう。本格的な64ビット化の時代に向けて、息の長い製品であってほしい。