生まれ変わるルネサス、その素顔に迫る。RZ誕生までの秘話とその狙い。

ルネサスエレクトロニクス(以下、ルネサス)は、2013年6月、ARM®のCortex™-A9コアを搭載したマイクロコンピュータ「RZファミリ」の第一弾となる「RZ/A1グループ」の「RZ/A1H」「RZ/A1M」「RZ/A1L」計15品種を製品化した。大容量RAMを内蔵することで、高性能かつ低システムコストを実現するDRAMレスソリューションを提供するものだ。すでに、RZ/A1HおよびRZ/A1Lの10製品をサンプル出荷。販売目標数は、2015年6月で100万個としている。ここでは、RZファミリの開発背景や魅力をはじめ、APS読者の気になるSHマイコンの継続性などについても聞いた。

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上位に位置づけられる新ファミリ

白物家電、産業用や医療用のパネル、OA機器、自動販売機、オーディオ機器など多くのマイコン搭載システムでHMI(Human Machine Interface)へのニーズが高くなってきた。スマートフォンの普及から、フリックやタッチ、スワイプといったスマートフォンのような画面操作も求められるようになっている。さらに、TAT短縮やコスト削減のためターンキーソリューションへのニーズも増すばかりだ。

そこで比重が高くなっているのが、高性能なマイコンやソフトウェアだ。ハードウェアの高性能化はカスタムチップで実現できるが、少量多品種が多くなっている現在、高性能マイコンを採用する事例が増えている。

ルネサスがARMプロセッサをラインアップに加える理由のひとつが、ここだ。ルネサスのARMプロセッサである「RZファミリ」は、ルネサスの新世代16ビットマイコン「RL78」や32ビットのミドルレンジマイコン「RX」、車載マイコンの新しいファミリである「RH850」のさらに上位に位置づけられる新しい製品ファミリである。制御とITの融合に向けて、自社コアの方が強みを持つ分野もあるため、ルネサスコアとARMコアをニーズに応じて使い分けられればお客様にとって大きなメリットと考えています」(山本氏)。

RZファミリがターゲットとしているのは、コネクティビティ機能を強化したハイエンドな製品や大規模/高速データストリーム製品など、高性能なアプリケーションである。そういった製品はソフトウェアも大規模化してしまう。ソフトウェアの比重が大きくなると、必然的にエコシステムの充実が求められる。

RZファミリが加わったことでルネサスマイコンのコア種が増えたことになる。「重要なのは、コアの種類ではなく、お客様が求めるソリューションに何が最適なコアなのか。たとえコアが違ったとしてもペリフェラルが同じなら使い勝手はそれほど変わりません。また、コア以上に開発環境やコンパイラ、OS等が、より開発へ与える影響が大きくなっています。ルネサスのマイコンはARMであっても従来通り安心してお使いいただける環境を準備します」(佐藤氏)という。

10年で約8億個のARMコア製品の出荷実績を持つ

実はルネサスとARMの付き合いは長く、すでに10年におよぶ。2003年にマルチプロセッサの事業分野で戦略的パートナーシップ契約を締結しており、ARM11のマルチプロセッサも共同開発している。この技術をベースにCortex-A9 MPもARMと共同開発した。

ルネサスのASICやASSP製品においては、10年で約8億個のARMコア製品の出荷実績を誇り、ARMから見ればお得意様である。「モバイル向けのチップでも実績は多く、RZファミリを開発するうえでも社内での抵抗感はありませんでした。ARMコアに対するサポートチームや設計を行っていたグループもあるため、すでに情報共有ができていました」(千葉氏)。

読者から見れば、ルネサスコア対ARMコアのように見えるかも知れないが、実際はルネサスのマイコンファミリにARMコアが加わったことになるだけで、お客様の選択肢が増えたことになる。「なかには『SHはもうやめちゃうの?』という人もいらっしゃいますが、これからもSHをはじめ既存コアは継続していきますので、心配ご無用です」(山本氏)。

マイコンというとCortex-Mシリーズを搭載した製品が多い中、なぜルネサスはあえてCortex-A9を採用したのか。「SH-2Aコアと同等な性能を発揮させるには、スーパースカラであることが必要でした。さらにNEON機能を活用することで、グラフィックスやオーディオなどの製品の魅力をより向上させることができます」(佐藤氏)。また、Cortex-A9は市場での実績もあり、エコシステムが成熟しているのも選択した理由のひとつという。

「SH-2AコアよりもCortex-A9の方が実装面積は大きそうな気もしますが、ルネサスの実装力があれば、SH-2Aコアのような低消費電力で省実装面積をCortex-A9で実現可能であると判断しました」(大島氏)という。

10MBのSRAMを内蔵しさまざまな課題を解決

RZファミリの大きな特長として、10MBのSRAMを内蔵していることがあげられる。10MBの内蔵SRAMは、2013年6月時点でのルネサス調べでは世界最大だという。ちなみに、内蔵RAMが10MBのRZ/A1H、5MBのRZ/A1M、3MBのRZ/A1Lがあり、10MBのRZ/A1Hと3MBのRZ/A1Lは、すでにサンプル出荷済だ。この大容量RAMの搭載が、最もこだわったポイントだという。「昨今、外付けDRAMについてのさまざまな課題を解決したいというお客様の声を真摯に受け止めて開発しました」(佐藤氏)。

外付けDRAMが進化することで、消費電力やノイズ問題、ボード設計の難易度向上、外付けRAMへのバス帯域幅の確保、専用電源などもコストアップ要因となる。さらに、組み込みシステムに向けた中容量/中速の汎用DRAMの供給不安や価格変化も、ユーザーにとって負担が大きい。「大口ユーザーならメモリメーカーとの交渉力がありますが、小口だといつ供給を止められるか分からないなど不安はつきません。メモリの供給が不安定だと製品製造工程にも影響が避けられず、会社の存亡にも関わるリスクです」(佐藤氏)。メモリはシステムにとって重要なデバイスであり、供給不安は何としても避けたいところだ。

「どうしたら多くのお客様が安心して製品開発できるのかを議論している中、マイコン業界で圧倒的な大容量RAMを目指しました。シングルチップマイコンのRAMサイズは、せいぜい512Kバイト程度のものが多く、外付けのDDR製品は小さくても1Gバイト程度となってしまいます。世の中には、RAM容量が3Mや5Mバイト程度でちょうど良いという製品も多く、そういった製品ではシングルチップマイコンのRAM容量では足りません」(佐藤氏)という。

数多くのペリフェラル資産を活用

RZ/A1HとRZ/A1Mには、自社製OpenVGグラフィックスエンジンを内蔵した。「同エンジンを内蔵したSH7269と比較すると、2~10倍の性能向上を実現しています」(佐藤氏)とのことだ。外付けのメモリにアクセスする構成だと、バス幅に影響されてしまう。RZファミリの内蔵RAMへのアクセスは、AXIバスのマルチレイヤ/マルチバンク構成のためバス帯域幅不足の心配は不要だ。この構造で外付けRAM製品と比較すると、性能が約1.5倍以上向上するという報告もあるという。つまり、RZ/A1は周波数400MHz動作であるが、実質600MHz相当の性能が実現できることになる。

プロセッサのコアは異なっても、ペリフェラルが同じであれば使い勝手に大きな違いは出ない。「ルネサスは、数多くのペリフェラル資産を持っています。RZファミリにはそれらの中から最適なものを選択して組み合わせました。リード顧客の声を反映したり、営業からの声を聞いて決めたものもあります」(大島氏)。ちなみに主なリード顧客は、カーオーディオや車載ディスプレイ、パネルなどの産業系、ドアホン、アミューズメントなどである。

評価ボードも用意している。「ルネサス製のボードはリッチなものですが、パートナー様からは比較的リーズナブルなものが今後提供される予定です」(佐藤氏)。パートナーの評価ボードは、1万円を切るところから数万円程度の価格になる。ARMが搭載された評価ボードのRaspberry Piがあり、今後、同じようなコンセプトのボードについても提供を考えているという。

もともとCortex-M系のCMSIS-RTOS RTXに対応

組み込みシステムを考えるうえでリアルタイムOSは重要なポジションを占める。「RTOSについてのヒアリングを行うと、地域によって異なる製品が聞かれるなど、さまざまなリアルタイムOS名が上がっていました」(佐藤氏)。

そうした中、APIの共通化を目指すCMSIS-RTOS RTXのコンセプトに共感したという。「CMSIS-RTOS RTXの仕様をARMと共に決めて、ARMがポーティングしたものをルネサスが評価しました」(沓間氏)。ちなみにCMSIS-RTOS RTXは、ロイヤルティフリーのBSDライセンスソースコードで提供されるリアルタイムOSである。ARM純正リファレンスソフトウェア開発ツールスイートであるARM® Development Suite(DS-5™)や、DS-5 Starter Kit for RZ/A1にバンドルされている。もともとCMSIS-RTOS RTXはCortex-M系のリアルタイムOSだった。それをCortex-A9搭載のRZファミリにCMSIS-RTOS RTXが対応したことで、Cortex-M系で性能を満たせないユーザーにとって、良いソリューションとなることは間違いない。

エコシステムは、41社が立ち上げパートナーとして名乗りを上げた。「ほとんどが昔からお付き合いのあるパートナー様で、これはルネサスにとって大きな資産です」(佐藤氏)。エコシステムパートナーは、今後も増えていく予定であり、すでにサポートを始めたところもある。ルネサスの特約店向けセミナーにエコシステムパートナーを招いたり、エコシステムパートナーのイベントにルネサスとして出展するなど、ジョイントマーケティングによる交流も積極的に実施していく予定だ。

ルネサスの応用製品部隊がルネサスソリューションズである。「われわれはパートナーやツールベンダーと共にソフトウェア全体を見ています」(沓間氏)。ソフトウェアのプラットフォーム構築も行っており、現在、カーオーディオやグラフィックス、通信などの分野の顧客とプラットフォーム構築を進めているという。「ルネサスソリューションズは、ワールドワイドのパートナー様と連携してソフトウェアを担当し、お客様の製品開発の短TAT化に貢献しています。ご要望には何でもお応えします」(沓間氏)。

DRAM無しでも最大でWXGAサイズの表示を実現

RZファミリがターゲットとするのは、RAM容量が512Kバイト以上から10Mバイト以下のアプリケーションとなる。10MバイトのRAMサイズがあれば、DRAMを外付けすることなく最大でWXGAサイズ(1280×768画素)までのディスプレイを備えたHMIシステムを構築できる。「フレームバッファを内蔵し、リアルタイムOSやミドルウェアも搭載することができます。つまり、プログラム実行時の命令コードや2Dグラフィックス処理などHMI用途に必要な大容量の画像データを内蔵メモリだけで処理が可能なため、外付けDRAMが不要となります」(佐藤氏)。

さらに、監視カメラや2次元バーコードスキャナなどのカメラ応用もある。また、表示がなくとも、スマートメータのゲートウェイ、データ通信モジュールのように10MB以下のRAMサイズで足りるアプリケーションでも引合いがある。「RZ/A1は標準的なインタフェースを搭載しているので、シンプルな汎用マイコンとして使用できます」(佐藤氏)という。

ルネサスは高速のフラッシュマイコンでも業界をリードしているが、そのシリーズと今回のRZファミリの関係性はどうなるのか。「ルネサスは、高速のフラッシュメモリのプロセスがあり、200MHz程度のMCUでは高いシェアを持っています。しかし、ある一定以上の処理が必要となるHMIなどでは、200MHzでは不足することが多いのも事実です。そのレンジではSoCが用いられることが多かったのですが、ルネサスは最先端のプロセスを用いRAMベースでマイコンを開発することで、そのレンジをカバーしようとRZファミリを開発しました」(山本氏)。フラッシュマイコンはいままで通りに継続し、新たに大容量RAMを搭載したRZファミリをラインアップに加えたということだ。

Cortex-A9のカジュアルな活用を推進

ARMコアが広く普及することで、マイコンへの参入障壁が下がり、多くの半導体ベンダーがMCU製品を提供している。「ルネサスエレクトロニクスはMCUで高いシェアをいただいており、多くの製品を提供しています。これまでハイエンドのSH4コアやMIPSコアも用意していましたがASSPやSoC製品に搭載されることが多く、一般的ではありませんでした。今回ARMコアを搭載したRZファミリを製品化することで、汎用の高性能MPUをより多くのお客様にご提供できるようになりました」(千葉氏)。

しかも、高性能なCortex-A9を搭載しながらフィンレスでシステムを構成できる。「MCUの世界にCortex-A9を持ち込んだものはいままでにありませんでした。Cortex-A9の性能を、MCUのような使い勝手で、カジュアルに使えるチップということです」(佐藤氏)。

最後に佐藤氏は、「秋葉原などでも購入できるようにしていきます。小口から大口のお客様まで長期レンジで安心してお使いいただくため、アプリケーションノートはホームページからダウンロードできますし、低コストの評価ボードを用いることで、趣味や学習でも手軽に楽しんでいただけるようにしています。今後は雑誌との連動企画もやっていきたいですね」と結んだ。RZファミリは、Cortex-A9をカジュアルに活用できるようにした今までにないマイクロコンピュータであり、今後の組み込みシステムの在り方を変えるポテンシャルを持っていると感じた。