数ミリ秒のレスポンスが要求される競技飛行の制御にSTM32の処理性能が貢献

STマイクロエレクトロニクスは、ARMのCortex-Mコアを搭載した「STM32」をラインアップしている。そのSTM32の採用を予定しているのが日本遠隔制御(JR PROPO)である。ここでは、STマイクロエレクトロニクスにSTM32の概要を聞くとともに、日本遠隔制御にSTM32の採用理由やその効果などを聞いた。

STM32ファミリとして豊富な品種をラインアップ

STマイクロエレクトロニクス(以下ST)は、ARM7の時代からARMコアを採用してきており、多くの実績を持つ。Cortex-Mコアを搭載した「STM32」をはじめ、ARM7を搭載した「STR7」やARM9E搭載の「STR9」など、豊富なラインアップがある。また、プロセッサとしてCortex-A9 MPCoreコアを採用した「T2430H」などもある。「STは、ARMコアを10年以上使用しており、今後もさまざまなARMコア搭載製品をリリースしていきます」(ST 野田氏)。

STM32ファミリは、STM32 F-1、STM32 F-2、STM32 Lというシリーズがある。STM32 F-1シリーズは、コネクティビティ・ライン、パフォーマンス・ライン、USBアクセス・ライン、アクセス・ライン、バリュー・ラインといった製品ラインがある。さらにSTM32 F-2シリーズはF-1シリーズよりも高性能であり、メモリや内蔵ペリフェラルが充実しており、STM32 Lシリーズは超低消費電力のマイコンである。「いろいろな製品ラインがある中、STM32 F-1のバリュー・ラインはST日本法人が主導して仕様を決め製品化したものです。海外メーカながら日本のお客様の声を反映した製品も提供しています」(野田氏)。

ジャイロ・センサやガバナの次期製品に採用

STM32ファミリをジャイロ・センサやガバナ(Governor:調速機)の次期製品に採用することを決定しているのが、日本遠隔制御(JR PROPO)である。日本遠隔制御は、模型用ラジオコントロール(Radio Control:RC)装置(プロポ)、産業用無線装置、模型ヘリコプターなどを手がけているメーカである。

ちなみにプロポとは、「プロポーショナル・システム」の略で、 一般的には送信機のことを指す。プロポにさまざまなタイプがあり、ヘリコプターや飛行機ではスティック・タイプが用いられる。電波形式も多彩で、AMやFM、PCM(Pulse Code Modulation)、DSSS(Direct Sequence Spread Spectrum)や FHSS(Frequency Hopping Spread Spectrum)方式などがある。

従来から使用されてきたメガヘルツ帯の周波数には、27MHz帯や40MHz帯、72MHz帯が国内で使用されてきたが、同時に使用できるバンド数に制限があった。近年では、2.4GHz帯が利用できるようになり、混信を抑制する技術であるDSSS方式やFHSS方式の採用によって、同時に使用可能なバンド数が大幅に増えている。

ガバナとは、ヘリコプターのメインロータの回転数を一定にするもの。「ロータのピッチ(角度)操作によって生じる負荷が影響して回転数に変動が生じると操作性が犠牲になります。競技などで極めて微妙な操縦が要求される場合に、ガバナがあると有利になることが多いですね」(日本遠隔制御 古山氏)。

ペリフェラルの柔軟さや処理性能を高く評価

STM32は、とにかく低消費電力なことに加え、処理性能も高く、かつ低価格であり、他メーカの32ビット・マイコンも比較したが、同等の処理では消費電力が大きく、同じ演算でもSTM32の方が良かったという。「われわれのアプリケーションは、バッテリ駆動という点から消費電力には気を配らないといけません」(古山氏)。

さらに古山氏は、STM32に搭載されているペリフェラルの柔軟さや機能の高さも評価する。「タイマのプリスケーラも高機能で、他メーカの32ビット・マイコンと比べても大きなメリットがあります」(古山氏)。

性能の高さについても、「ヘリコプターは、制御技術のかたまりです。プロポのスティック操作がすべてではなく、高性能なジャイロ・センサやガバナ等の機器の助けを借りないと、特に競技では対応は難しくなります。ベテランのフライヤーは、数ミリ秒の違いが分かるほどで、少しでも制御を変えると『あれ?いじったでしょう』と指摘されます。また、操縦フィーリングが『ニュルっとした雰囲気で気持ち悪い』、『カチっとしていていい』、『指に追随していていい』といった表現をされることが多く、われわれとしてはそういった抽象的な要求にも対応していく必要があります。STM32のように処理性能にマージンがあれば、対応しやすいですね。さらに、STM32だと処理性が高いことから、高いリアルタイム性能が要求される制御演算部も移植性を保ったままC言語で記述できるのでこれまでの資産も活用できます」(古山氏)とのことだ。

豊富なファームウエア・ライブラリ

STM32は、多彩なペリフェラルが用意されており、特色あるマイコンとなっている。ピン数も36~144と豊富で、内蔵フラッシュ・メモリも16KB~1MBと幅広い。「ピン数に合わせながらフラッシュ・メモリの容量を自由に変更できるようになり、設計に応じた最適な調達が可能となります」(野田氏)。

豊富なファームウエア・ライブラリも用意されている。「汎用のものをはじめ、USB(Universal Serial Bus)やモータ制御、DSP(Digital Signal Processor)などに特化したものなど100種類くらい用意しています。ファームウエア・ライブラリと評価ボードを用いることで、簡単に評価を開始することができるのも特徴のひとつです」(野田氏)。

「ファームウエア・ライブラリをプロトタイプで活用することで、とにかく早く開発できます。量産品についても、一部のファームウエア・ライブラリをそのまま使っています」(古山氏)という。ファームウエア・ライブラリはSTのホームページから無償でダウンロードできる。使用の際のロイヤリティもかからない。

技術的な問い合わせの90%以上を国内で対応

製品は良いのだけれど、海外メーカは苦手という人も多いかも知れない。それに対してSTは、「ハードウエア・マニュアルの日本語化を行い、OSやミドルウエアについても日本のサード・パーティと連携するなど、日本市場のお客様に特化したサポートを強化しています」(野田氏)。技術的な問い合わせについても90%以上を日本国内で解決しているとのことだ。

今後の製品として、STM32 Lシリーズでは超低消費電力といった特徴に加え、EEPROM(Electrically Erasable and Programmable Read Only Memory)やUSB、AD / DAコンバータ、液晶コントローラなどのペリフェラルを用意し、それらを適宜搭載した製品のリリースを2010年の秋頃に予定。さらに、STM32 F-2シリーズでは90nmプロセスを採用することで、Cortex-M3コアを搭載したMCUでは初めて100MHzを超える120MHz(150DMIPS)という高性能な製品の提供を2011年のはじめ頃に予定している。ピン数は多ピンニーズに応える最大176ピン、イーサネット、USB2.0のHigh Speedモード、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)カメラ・インタフェース、暗号化エンジンなどが用意されており、STM32の市場を大きく広げるものになる。

「Cortex-Mシリーズの市場が広がる中、アーキテクチャを共通化したいというニーズに対応し、日本のお客様の声を反映した製品を提供していきます」(野田氏)。このようにSTがラインアップを充実させる中、古山氏は「海外メーカの方が、新しい機能を積極的に取り入れているという印象です」という。

STM32は、日本遠隔制御の競争力ある製品開発に大きく貢献していくだろう。