マルチコアARMを搭載した大規模SoCをEDAソリューションの活用によって短期間・高効率に開発

OA機器や光学機器製造メーカーの大手であるリコーは、次世代MFP(Multi-function Printer:複合機)などに搭載されるSoCの開発にシノプシスのソリューションを活用し、大きな成果をあげている。ここでは、近年のMFPのトレンドをはじめ、大規模・複雑化が著しいSoC開発環境へ向けた新たなプラットフォームの構築、それに伴う各種ツール群の導入、さらにはEDAコンサルティング・サービスのメリットや効果などを聞いた。

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マルチタスクでの高度で高速な制御が必要に

一昔前まで、オフィスにはコピー機やファクシミリ、プリンタなど複数のシステムが混在していた。それが、近年はMFP(複合機)がそれらに置き換わりつつある。MFPとは、コピー、ファクシミリ、プリンタ、スキャナなどの機能を1台で実現するシステムだ。給紙などの高度なメカニカル制御が必要なメカトロニクス装置であり、最近ではネットワークにも対応したり、ハードディスクを搭載しスキャンした画像の保存や、ネットワーク経由で送られてくるパソコンからの出力を印刷やストックするなど、マルチタスクでの高度で高速な制御が必要となっている。

「MFPのトレンドは、高速ネットワークや無線LAN、USB3.0への対応などパソコンの進化のトレンドに合致しています」とリコー木村氏は語る。さらに、ユーザインタフェースや保守性の高さもポイントだ。「スマートフォンのような操作スタイルへの要望も高く、またトナー切れなどを事前に予測してサービスマンを呼ぶような機能もあります」(リコー小澤氏)とのことだ。

MFPは、事業所の規模によってニーズが異なる。規模が大きいと、すでに設置してある社内ネットワークのひとつのノードとして導入されることがあり、それらの提案も求められる。一方、中小規模の事業所だと、スタンドアローンやネットワークにつなぐにしても比較的規模の小さなものとなることが多い。「ネットワーク環境の構築も含めてご提案させていただくこともあります」(リコー守田氏)という。

省エネ性能の必要性も高いが、木村氏は「省エネのためのスタンバイ・モードからの復帰時間がポイントとなります」という。これもパソコンへのニーズと同じである。モードの方式にもよるが、現状7~8秒程度で動作できるようになるものが多い。

システム全体の開発プラットフォームを構築

MFP に搭載されるような大規模SoCの開発環境は、プラットフォーム化することで効率向上を図られることが多い。最新のインターフェイス技術には、それらの機能をあらかじめブロック化しておくことで迅速に対応している。木村氏の部署では、ソフトウェア開発部門とハードウェア開発部門の間に立って、システム全体の開発プラットフォームを構築している。

今回は、次世代のMFPに向けたSoC開発のためのプラットフォームを構築した。①アーキテクチャ検討、②ソフトウェアの早期開発、③RTL検証サイクルを上手く回す、これらハードウェアとソフトウェアの開発効率を向上させることを目的とするものだ。「アーキテクチャ検討、ソフトウェア早期開発、RTL検証は、それぞれ部門が分かれているうえ、システムの仕様を紙ベースでやり取りをしていることから解釈の違いなどがありました。新しいプラットフォームは、実際に実行可能なシステムの形で仕様を部門間で共有できるため、こうした壁がかなり低くなったと思います」(守田氏)。

実際には、「アーキテクチャ検討」と「ソフトウェア早期開発」の間で期待した成果があった。試作機の完成を待ってからソフトウェアの検証を行うという従来からの開発手法と比べて、ソフトウェア開発の早期開始と致命的な手戻りの発生要因を初期につぶすことが可能となり、結果として、5~6ヶ月もの工期短縮を実現できたとのことだ。その後の「RTL検証」までの自動化は今後の課題だという。

新しいプラットフォームを活用して開発しているのは、複数のARMコアを搭載した次世代のMFPに向けたSoCである。「プリンタやスキャナ、ユーザインタフェース、ネットワークやI/Oなどの複数の機能を複数のARMコアで処理させるものです。OSは、コアごとに異なるものを搭載しています」(木村氏)。

エコシステムの充実がARMコア採用のメリット

ARMコアの採用メリットとして、ツールのエコシステムの充実が挙げられた。特にARMソリューションに強みをもつシノプシスのツールチェーンを使えば統合環境を構築しやすいという。現在進めているプロジェクトで活用しているプラットフォームでは、シノプシスの仮想プロトタイプ開発/実行用ESLツール「Virtualizer」と論理シミュレータの「VCS」、論理エミュレータ「ZeBu」を連携させた。

Virtualizerは、SystemCベースのTLM(Transaction Level Model)を作成でき、作成したTLMを用いた仮想プロトタイプの開発/実行ができるESLツールである。TLMを用いることで、RTLより抽象度の高いレベルの記述ができ、より上流での設計を早期に検証することが可能になる。リコーでは、VirtualizerとZeBuを組み合わせることで、ESLとRTLの高速コ・エミュレーション検証を実現した。

VCSは、SystemCのTLMとHDLのRTLを同時に実行できる論理シミュレータである。「VCS は、業界トップクラスの論理シミュレータです。大きな特長として、SystemCとRTLのモデルを同時にシングルカーネルで動作させることができるため、高速なシミュレーションが可能なことです。SystemCのモデルが無くてもRTLのモデルがあれば、RTLを変更することなくVCSとVirtualizerの連携により高速なシミュレーションが実現可能になります」(シノプシス中氏)。この機能の有効性はリコーでも認めており、守田氏は「これがないと精度や機能などすべてが中途半端になり満足できないものになる」、木村氏も「マストのツール」だと言い切った。

高速かつコンパクトな論理エミュレータ

ZeBuは、高速性とコンパクト性に特長をもつ論理エミュレータである。ハードウェアとソフトウェアに加え、さらにユーザインタフェースまでも統合した仮想プロトタイピング環境を構築できる。

守田氏は、ZeBuの導入効果を2つあげた。「ひとつは、ハードウェア検証のスピードが圧倒的に速いことです。シミュレーションでは、用紙1枚分をコピーするユースケースの検証でさえ1週間もかかることがありますが、エミュレータのZeBuならばはるかに短い時間で検証可能です。もうひとつは、実際のIPを使って、OSやデバイスドライバなどのソフトウェアの検証ができることです。検証のSystemCモデルには間違いがある恐れもあり、実績のあるIP を使用することでそういったミスを防ぐことができます。また、SystemCモデル作成の工数を大幅に削減できました」という。

「いままではRTLでシミュレーションを行っていましたが、今回のプロジェクトからはSystemCのモデルやすでに検証済みのRTLモデルを組み合わせて、要求仕様を満たしているかを見ています」と、ハードウェアの性能検証を担当しているリコー青木氏は語る。ZeBuは、ザイリンクス社のFPGAであるVirtexを搭載した論理エミュレータである。デザイン規模に応じて、ZeBu-ServerやZeBu-Blade2などがラインアップされている。リコーでは、ZeBu-Serverの5-slotユニット版を導入した。

高い評価を得ているプロフェッショナル・サービス

リコーでは、シノプシスが提供するEDAコンサルティング・サービスである「シノプシス・プロフェッショナル・サービス」も高く評価している。「リコー様のような新しいチャレンジをされるときには、ツール同士の接続が重要となりますが、お客様だけでは見切れないところもあります。そこでお客様と密着して問題を解決したり、使い方をご提案しています。今回のプロジェクトでは、ほぼ常駐状態でサポートさせていただきました」(中氏)。

当初リコーでは、今回のようなVirtualizer、VCS、ZeBuという組み合わせは、考えていなかったという。Virtualizer+ZeBuでソフトウェアの早期検証、ZeBu単体でRTL検証という使い方を想定していた。VCSが加わったのは、SystemCへ移行できないモデルでもRTLの資産を有効活用することで、VCSとVirtualizerを連携した高速な検証環境を実現できるからだ。

今回のリコーの事例は革新的といえる。「ツールを導入されるメーカー様は、それぞれ設計のやり方が異なっており、特に立ち上げ時にさまざまな問題が発生しやすいものです。3つのツールを連携されたリコー様は、かなり先進的な使い方をされています」(シノプシス中野氏)という。「多くのお客様はある程度の成果で割り切ってしまうものですが、リコー様はそこには留まらず、もう一歩先を目指されています。3つのツールをつなぐのは珍しいのですが、リコー様はそれにチャレンジし成果もあげており、この点は非常に進んでいるところだと感じています」(シノプシス松本氏)とのことだ。

今後も若い力でシステム設計検証の技術を伸ばしていきたい

MFP のような大規模なシステムでは、プラットフォームの重要性がより明確になる。個々のエンジニアも自分の担当だけではなく、広い視野を持つべきだ。小澤氏も「システム全体から俯瞰していくことで、さらに良い製品ができると思います。常に挑戦していく姿勢が最も大切だと思います」という。さらに「いままでのやり方を捨て、より先進的なツールや手法を取り入れ、チャレンジしていくことで、より魅力的な製品を短期間で開発できるようになります」と青木氏は、チャレンジの大切さを語る。

「いま日本のメーカーが全体的に停滞している中、コアとなる技術を持つことがポイントとなります。そのためにはハードウェアの差別化が基本となります。EDAツールを活用してコアとなる技術を早期に開発し、製品化していくことにチャレンジしていただきたい。そのためのサポートはシノプシスにお任せください」(中氏)という。さらに松本氏は、「お客様がすでにお持ちの設計検証の資産やノウハウ、スキルや時間など多くのポテンシャルを活かせるようなソリューションを今後も提供していきます」と続けた。

今回の事例で活用されたツールはどれも先進的なものばかりだ。「若いメンバーでプロジェクトを進められました。今後も若い力でシステムレベルの設計検証技術を伸ばしていきたいと思います」(守田氏)。また、ZeBuを開発・販売していたEVE社は2012 年10 月にシノプシスに買収された。そのことについて守田氏は、「今後のシステムの発展を見据え、従来からのシノプシスのツールとの連携をより深めて欲しい」と期待を語った。

木村氏は、「新しいことをやっていくには、良いパートナーとのつながりが大切となります。今回のような成果をあげられたのは、シノプシスやEVEとのパートナーシップがあったおかげです」という。それを受けて中野氏は、「我々EDAベンダーから見るとお客様は最高のパートナーです。リコー様のような先進的な使い方をしていただき、それをサポートすることで我々のツール自体もより洗練されていきます」とEDAベンダーから見たパートナーシップを語った。

シノプシスのEDAソリューションがリコーの次世代SoC開発に広く深く貢献していることが強く感じられた。