多彩なIPをARMマイコンに搭載することで差異化を実現。

東芝セミコンダクター社は、長らくマイコンを開発・提供しており、多彩なIPを持つ。そのIPをARMマイコンに搭載することで、特色あるマイコンに仕上げている。ここでは、CortexTM-M3プロセッサを採用しているTX03シリーズの中から、「TMPM370グループ」および「TMPM380グループ」を中心に同社の制御系マイコン戦略を聞いた。

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ARMコアを制御系マイコンや車載用マイコンなどに採用。

東芝セミコンダクター社は、世界トップクラスのシェアの「ディスクリート半導体」、デジタル機器の高性能化に不可欠な「システムLSI」、高速/大容量化を実現する「メモリ」という3つの製品群を大きな柱としている総合半導体メーカだ。売上高は世界の上位であり、国内でもトップクラスである。

マイコンは、自社開発の8ビットコアから、他のIPコアベンダのコアやARMコアを搭載したものなど豊富なラインアップを持つ。「従来から自社マイコンを開発してきましたが、高位ビットになるとコアの開発やお客様の開発環境への投資が増えてしまいます。そこで、世の中でデファクトになっていますARMのコアを当社のマイコンコアのロードマップに追加しました。ARMコアを採用することで差別化したIPの開発やお客様へのサポートに投資をする事で当社としての差別化を図っています」とは、三谷 統括部長。

ARMコアは、制御系マイコンや車載用マイコン、システムLSIなどに採用している。制御系マイコンにはCortex-M3プロセッサを導入しており、次のような製品グループがある。M320、M330、M390、M360、M340は3V製品であり、M370、M380は5V製品のグループとなる。いずれも、ARMコアならではのコード効率の高さ、高速割り込み、対応ソフトウェアの豊富さ、充実の開発環境など、多くの特長を持つ。

東芝セミコンダクター社は、多彩なIPを持っており、それらをさまざまなマイコンに搭載している。たとえば、TX03シリーズには、ベクトル制御エンジン(VE)、多目的タイマ、EthernetやCAN(Controller Area Network)などのシリアル、ハードウェアHDMI CEC(High Definition Multimedia Interface Consumer Electronics Control)制御、独立型RTC(Real-Time Clock)、高精度ADC(Analog/Digital Converter)/DAC(Digital/Analog Converter)、大容量メモリなど豊富なIPが使用されている。

モータ制御における省エネを促進する「TMPM370グループ」

現在、エコロジーが話題となっている。さまざまな分野で省エネ対策が進められており、それは家電製品も例外ではない。エアコンや冷蔵庫といったモータを使用する製品での電力使用量は増えており、省エネを実現するために求められているのが効率的なモータ制御だ。モータ制御にはさまざまな手法がある中、ブラシレスDCモータのベクトル制御は効率的なモータ制御に向いている。

TMPM370グループは、①ベクトル制御エンジンの搭載、②2モータへの対応、③周辺アナログ回路内蔵といった特長により、モータを使用する製品の省エネを促進できる。

①ベクトル制御エンジンによって、セクタごとに計算式が変わる相変換や座標軸変換などの複雑な演算を専用演算ユニットとスケジューラで構成されたベクトル制御エンジンが自動的に処理できる。これにより、高効率や低騒音に不可欠なベクトル制御でのCPU負荷低減に貢献する。

②2モータへの対応は、2系統のPWM(Pulse Width Modulation)制御に対応したベクトルエンジンに加え、2チャンネルのモータ専用タイマと12ビットADコンバータを搭載することで実現した。これによって、同時に2モータのベクトル制御が可能となっている(TMPM372/373/374は1モータ制御のみ)。

③周辺アナログ回路として、最大10倍のゲイン設定ができるアンプ、異常電流検出時の緊急停止信号発生用コンパレータを各4ユニット内蔵した。これにより、1シャントと3シャントによる2モータ制御を外付け部品無しで実現できる(TMPM372/373/374はアナログ回路を内蔵していない)。モータ制御における省エネを促進する「TMPM370FYFG/370FYDFG」を開発し製品化した。Cortex-M3プロセッサを80MHzで動作させ、ベクトル制御エンジンを内蔵している。

ベクトル制御をハードウェア化したベクトル制御エンジンを搭載。

TMPM370グループには、前述のようにベクトル制御をハードウェア化したベクトル制御エンジンを搭載している。東芝セミコンダクター社は、従来からPMD(Programmable Motor Driver)マイコンを展開してきており、TMPM370グループはその第三世代となる。

第一世代は、三相PWM出力、位置検出回路、専用タイマ、保護回路のハードウェアを内蔵することで、8ビットマイコンにてモータ制御を実現していた。これにより、容易に家電機器のインバータ化が可能になる。

第二世代は、第一世代に正弦波形生成回路を付加することで、PMDを強化したものだ。ソフトウェアの負荷を増さずに正弦波出力を可能にし、洗濯機用モータなどのさらなる低振動化を実現する。さらに、正弦波形生成回路によりACインバータにも容易に対応可能となった。

さらに第三世代は、ベクトル制御技術に対応するため、高い演算能力を持つCPUと高速変換可能なADCを内蔵し、多様化するインバータ家電機器に対応した。また、演算モジュールの一部をハードウェア化したベクトル制御エンジンを内蔵し、ソフトウェアの負荷を軽減できるようにしている。

ベクトル制御エンジンは、ハードウェア部分とソフトウェア部分に分けられる。「すべてハードウェア化してしまうと機能が固定化されてしまい適応するモータが限られてしまいます。ソフトウェア部分を残すことで自由度をあげています」とは、増田 担当部長。「さらに、このベクトル制御エンジンは、産業機器にも適用できます」(三谷氏)と、適用範囲は広い。

ちなみに、ベクトル制御エンジンは、東芝の生産技術センターと共同で開発したものだ。「東芝は総合電機メーカーとして様々なモーターを使用したセットを作っており、そこで蓄積した技術をベクトル制御エンジンに活かしています」とは、猪野 部長。

モータ駆動を考慮し5V単一でCortex-M3プロセッサを動作。

東芝セミコンダクター社ならではのIPとして、「NANO FLASHTM」をあげることができる。NAND型のフラッシュメモリは、高集積化に向いており高速書き込みができる。しかし、1バイト単位の読み出しはできないことから、ランダムアクセスが低速となってしまう。それに対してNOR型のフラッシュメモリは高速のランダムアクセスが可能であるが、集積度としてはNAND型に劣ってしまう。

「NANO FLASH」は、NAND型のセルデバイス技術とNOR型の回路技術を融合することで、それぞれの特長を活かしたロジック混載向け低消費電力フラッシュメモリである。「NANO FLASHは、NAND型とNOR型の良いとこ取りをしたもので、高集積で高速のランダムアクセスが低消費電力で可能となっています」(三谷氏)。ARMマイコンのシリーズにも、「NANO FLASH」を搭載することで2Mバイトのメモリ容量を実現している。

また、5V単一電源で動作するというのも大きな特長だ。「モータは5Vで回すことが多く、それを制御するマイコンにも5V動作が求められます。Cortex-M3プロセッサで5V単一動作するマイコンは、現時点で東芝セミコンダクター社のものだけです」(猪野氏)。さらにモータドライバと組み合わせたソリューション提案も行っている。「モータを効率よく回すというのは案外難しいもので、東芝セミコンダクター社は今まで培った経験をベースとしたソリューション提案も行っています」(猪野氏)

5V単一電源にすることで、ノイズやサージにも強くすることができる。「東芝セミコンダクター社は、8ビットマイコンのころからノイズやサージに関する技術を蓄積してきました。5V単一電源にすることで余計な電源回路が不要となることからノイズやサージでも暴走し難くすることができます」(増田氏)。

初期設定のみで周辺センサをハードウェアで監視できる。

ADCのトリガ待ちの時間を利用することで、比較的低速なデジタル・コンペアを実現しており、初期設定のみで周辺センサをハードウェアで監視することができる。従来からのトリガ同期モードでは、トリガ待ちの際にADCを使用できない。そのため、トリガに連動してセンサからの信号をAD変換するか、いったん停止して変換しなければならない。

アナログ入力監視機能では、トリガモードのトリガ待ちの期間に自動的に特定のAD変換を実行することで、トリガ周期よりも短い時間でアナログデータを監視することができる。さらに、比較レジスタを設けることで、変換値が比較レジスタより大もしくは小で割り込みが発生するデジタル比較のため、レベルの設定も容易だ。

「たとえば、モータを回すときの電源電圧はコンデンサーで平滑しており、高速で回転しているモータが何らかの要因で止まってしまうと、半導体やコンデンサーが破壊してしまう恐れがあります。そこで、アナログ入力監視機能で常にモニタリングしておき、電圧が上がったらモータ制御を切り替えるといったことを想定しています。エアコンであれば、温度センサをモニタリングすることで、変化があったらモータ制御を切り替えるといった使い方もできます」とは、小柴 主務。

アナログ入力監視では、それぞれのレジスタ保存できるデータ量も多いことから使い勝手も良いという。「アナログ入力チャンネルは全部で22チャンネルあります。他にもこれくらいのチャンネル数のマイコンはありますが、データを格納できる容量が大きいことから、自由度が高くなります」とは、外山 主務。「シスコンとしての使い勝手の良さを追求した機能であり、ベクトル制御エンジンもさることながら、このアナログ入力監視機能も重要だと思います」(小柴氏)。

安全規格である国際電気標準規格のIEC60730に準拠。

モータで駆動する機器では、モータ制御に不具合が生じると甚大な事故に発展しかねない。そこで、欧州では2007年10月から、家電機器についての安全規格である国際電気標準規格のIEC60730に準拠することが義務付けられている。

それに対してTMPM370ではハードウェアによるCPUクロック監視機能である「OFD(Oscillation Frequency Detector)」を内蔵した。8ビット時代から搭載しており実績あるものだ。「欧州に洗濯機などを輸出しているお客様から、IEC60730への対応を求められた際に、マイコンでできることは何かと考え、OFDで異常を監視するということを思いついたのです」(外山氏)。それ以来、東芝セミコンダクター社のマイコンの多くに、OFD機能を搭載してきたという。

CPUクロックの異常を監視するには、CPUとは別のクロックによって作られる一定周期ごとにソフトウェアで判断するという方法がある。しかし、「マイコンのクロック異常を見るのに、その異常クロックで動作するソフトウェアを使うということはある意味矛盾しています」(外山氏)。

他にもWDT(Watch Dog Timer)を使う方法、コンデンサーの充放電時間を使う方法などがあるが、いずれもソフトウェア処理が必要となる。「ソフトウェア・エンジニアから見れば、安全規格への対応は製品化していく上で必要なものであるのですが、できればやりたくないというのが本音でしょう。OFDといったソリューションを用意することで、ソフトウェア・エンジニアの負担軽減に貢献しているのです」(外山氏)。

主に家電のシステム制御ニーズに応える「TMPM380グループ」。

TMPM380グループは、Cortex-M3プロセッサを40MHzで動作させることで、主に家電のシステム制御ニーズに応えるものとなる。多目的タイマも内蔵しているので、モータ制御やIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)制御にも対応する。ADCトリガ付の同期3chPPG出力による三相PWM出力、外部トリガスタートやデッドタイム出力、同期2chPPG出力可能、緊急出力停止端子でのIGBT制御タイマなどが可能だ。

応用製品として、炊飯器や電磁調理器などのIH(Induction Heating)ヒータにおけるIGBT制御、電子レンジのインバータでのIGBT制御、それらの家電製品のパネル操作などがある。さらに冷蔵庫では、インバータ制御のモータ制御やセンサ入力用のADコンバータ、メイン制御のセンサ入力用のADコンバータやシリアル通信、パネル部のLEDドライバやシリアル通信など幅広く活用できる。さらに、東芝セミコンダクター社では、マイコン+ドライバICによる最適な提案を行っている。

TMPM380グループの新製品として、「TMPM380FYFG/380FWFG」および「TMPM382FWFG/382FSFG」を開発中だ。いずれもCortex-M3プロセッサを40MHzで動作させ、多目的タイマを内蔵している。両製品は、TMPM380FYFG/380FWFGは12ビットADCを18チャンネル、多目的タイマが3チャンネル、TMPM382FWFG/382FSFGは12ビットADCを10チャンネル、多目的タイマが1チャンネルなど、内蔵周辺機能が異なっている。「デファクトなARM M3コアに当社の最先端のモータ制御(IP)技術を搭載することでモータ制御分野では絶対の自信がある」(三谷氏)という。

継承性のあるコアをタイムリーに提供していって欲しい。

TMPM370/380に向けたツールとして、ツールベンダ各社からコンパイラやシミュレータ、デバッガ、エミュレータといったツールが用意されている。さらに、リファレンスボードに加え、各種ツールをワンパッケージ化したスタータ・キットも用意されている。「今後は、8ビットは東芝オリジナルで展開し、16~32ビット(一部8ビット・マイコンのハイエンド・ユースを含む)をARMコアに統合していきます。もちろん、従来からのマイコンのサポートは引き続き提供していきます」(猪野氏)。

今後は、機能を削減した小ピン版、ROM拡張版などラインアップを充実するとともに、I/Oを拡張しPMDを3チャンネルに増やしたものやCANを搭載したものなどを展開していく。マイコンの導入には技術サポートは欠かせない。それに対して猪野氏は、「国内メーカならではのきめ細かなサポートを行っています」と胸を張る。

ARM社への要望として、「コード効率やリアルタイム性のニーズに応えながら、継承性のあるコアがタイムリーに提供されることを期待している」(三谷氏)という。ARM社のソリューションは、東芝セミコンダクター社のマイコンやシステムLSI戦略に大きく貢献している。