IoTへのショートカット。東芝アプリプロセッサApP Lite™。

株式会社東芝 ストレージ&デバイスソリューション社(以下、東芝)は、ARM® Cortex®-A9を搭載したTZ2000シリーズ、Cortex-M4Fを搭載したTZ1000シリーズのアプリケーションプロセッサ「ApP Liteファミリー」を展開している。IoTにおいて、TZ1000シリーズはセンサなどでデータを取得して狭域に通信、TZ2000シリーズはデータを抽出して広域に通信する、など活用方法がわかりやすい。ここではそれぞれの特長に加え、採用事例などを聞いた。

メインイメージ
集合写真(左より)
株式会社東芝 ストレージ&デバイスソリューション社 ロジックLSI統括部 ロジックLSI応用技術部
部長附 前納 秀樹 氏
分野別拡販担当 参事 尾鷲 一也 氏

ApP Liteはアプリケーション・プロセッサ・ライトを略したもの。

東芝は、Cortex-Mシリーズを搭載したMCUに加え、アプリケーションプロセッサとして「ApP Liteファミリー」を開発/提供している。ApP Liteファミリーは、Cortex-A9を搭載した製品とCortex-M4Fを搭載した製品に大別される。

IoTの広がりにより、ネットワーク負荷が急増する現在、センサなどからの生データをそのままクラウドへあげるのではなく、端末側である程度の処理を行うことでネットワークの負荷を軽減することが望まれている。東芝はその解として、Cortex-M4Fを搭載するTZ1000シリーズをセンサなどでデータを取得する部分に、Cortex-A9を搭載するTZ2000シリーズをデータ抽出などでの活用を想定した提案をしている。また、ApP Liteファミリーは多くの採用実績があり、多様なアプリケーションに搭載されていることも後ほど紹介しよう。

アプリケーションプロセッサは、機能を特化しすぎると汎用性が落ち、コストにも跳ね返る。一方、汎用的過ぎると他社製品に埋もれてしまう。「ApP Liteファミリーは、搭載するペリフェラルに何を選び、何を捨てるかが開発の鍵となりました」(前納氏)という。ApP Liteファミリーのロードマップを図1に示す。

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図1:TZ2000シリーズのロードマップ。

TZ2000は、Cortex-A9を200MHzで駆動させている。「TZ2000は、大手電力会社様のスマートメータシステムのデータコンセントレータ用として採用されました。OSにLinux®を載せ、通信機能も搭載しています」(前納氏)。

このTZ2000をベースにお客様にヒアリングをして開発したのがTZ2100だ。Cortex-A9を、300MHzまたは600MHzで駆動することでTZ2000よりも高い処理能力を持たせている。高速の2Dグラフィックスアクセラレータを搭載しており、リッチなディスプレイシステムを構築できる。この2Dグラフィックスアクセラレータは、それを搭載していない同等性能品と比較して、Blitで12倍、三角形の描画で16倍の性能を持つ。重い表示処理をオフロードすることでCPUは別のタスクをこなすことを実現する。

また、各種高速インタフェースを用意することで、優れた拡張性を獲得した。OSはLinuxや各種リアルタイムOSに対応している。さらに、各種ミドルウェア、評価ボードを揃えており、効率的な開発を後押ししている。評価ボードは、①汎用性の高いもの、②バックアップ用電池を入れて、パラレルのROMを搭載したアミューズメント向け、③カメラとLCDを接続できる小型なもの、④LANポートに加えUSBポートを3つ用意したゲートウェイ・ソリューションを意識したものを用意している。

TZ2100の特徴を評価され、多彩なアプリケーションに採用。

TZ2100は、株式会社ユピテル(以下、ユピテル)のGPS&レーダー探知機やカシオ計算機株式会社(以下、カシオ)のデジタル英会話学習機「Lesson Pod(LP-E01)」などへ採用されている。TZ1000は、株式会社タカラトミー(以下、タカラトミー)の「JOY!VR 宇宙の旅人(以下、JOY!VR)」などへ採用されている(図2)。

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図2:ApP Liteファミリーが採用されたアプリケーション。

まずはCortex-A9を搭載するTZ2100の採用事例として、ユピテルのGPS&レーダー探知機「霧島レイモデル Lei03」を見てみよう。これは、同社オリジナルキャラクターの「霧島レイ」が話すことで親しみやすいモデルとなっているものだ。キャラクターは、2.5Dグラフィックスによるアニメーションであり、人気実力派声優「沢城みゆき」による3500以上のフレーズという膨大な数のオリジナル音声が収録されている。

以前のレーダー探知機は音だけだったが、いまは液晶ディスプレイを搭載し、警報を地図上に表示するものが主流だ。「ユピテル様は、もともと海外製のゲーム用グラフィックコントローラを採用されていました。それを高機能化するため海外ベンダーの1GHzのプロセッサを評価されていましたが、価格が高い上にLinux OSしかサポートしていなかったため非常に悩まれていました」(尾鷲氏)。画面があるレーダー探知機は、QVGAが一般的だが、Lei03はWVGAにしている。2Dグラフィックス機能のαブレンディング機能が、霧島レイをアニメーションで動かす際に威力を発揮した。地図データの高速表示でも、600MHzのCPU性能に加え、2Dグラフィックス性能が活きているという。

また地図データの更新時には、TZ2100のペリフェラルが活用されている。「これまでは、地図データの更新はSDカードでしたが、最近はWi-Fi®やBluetooth®で行います。TZ2100にはSD、e・MMC、SDIOと合計3チャンネルのSD系のインタフェースが用意されています。これらのインタフェースを使うことで、Wi-FiやBluetoothのチップへの接続が容易になりました」(尾鷲氏)。さらに、将来はドライブレコーダと接続するため、カメラインタフェースも用意したという。現在、最上位のモデルであるLei03に採用されているが、順次他のレンジもカバーしていきたいとのこと。TZ2100は、国内レーダー探知機メーカー各社に採用されており、着実に実績を伸ばしている。

次の採用事例として、カシオのデジタル英会話学習機「Lesson Pod」を紹介しよう。小型の手のひらサイズで、自宅のあらゆる場所で対話しながら英会話を学べる学習機である。IPX5/IPX7の防水仕様を採用しており、バスルームやキッチンでも安心して使うことができる。反復レッスン、発音レッスン、文法レッスン、実用会話ライブラリー、英語クイズ、発音聞き分けゲームなど英会話の習得に役立つコンテンツを内蔵しており、効果的な英会話学習をサポートしている。さらにLesson Podに近づくと英語で挨拶をしたり、Lesson Podに向かって、あらかじめ決められた質問をすると英語で回答する機能も搭載している。

「Lesson PodにTZ2100が採用されたポイントは、価格と性能のバランス、そして国内ベンダーならではのサポートでした」(尾鷲氏)。Lesson Podには音声認識ソフトが搭載されており、それをストレスなく動作させるためには、高いCPU性能+高速メモリが条件であった。「TZ2100の600MHzのものであれば1500MIPS程度あり、高速メモリの条件にもDDR3のインタフェースで余裕を持って対応できました」(尾鷲氏)。さらに、スタンバイ電流の低消費電力も決め手となった。「Lesson Podは、使い方にもよりますが、概ね1回の充電で1日3回(合計30分)使用した場合、約4日間の稼動を実現しています」(尾鷲氏)。

TZ1000の採用理由はワンパッケージかつ低電力

最後にCortex-M4F搭載したTZ1000の採用事例として、タカラトミーの「JOY!VR」も見てみよう。JOY!VRは事前にアプリケーションをインストールしたスマートフォンをVRゴーグルに装着し、VR空間を360度自由に移動できるものだ。

TZ1000は、小型の専用コントローラ部分に採用されている。TZ1000には、MEMSの加速度センサ、ジャイロセンサ、地磁気センサが内蔵されているため、3次元空間位置情報の検出が可能であり、Bluetooth low energyにより検出した位置情報をスマートフォンに伝送している。「これらの機能を1パッケージで、かつ低電力で実現できる特長が評価され、採用されました」(前納氏)。

TZ1000は、48MHz駆動のCortex-M4Fに加え、省電力の通信規格であるBluetooth low energy、加速度センサ、1Mバイトのフラッシュメモリなどを内蔵したプロセッサである。TZ1000のみでウェアラブル端末に必要な計測、データ処理、通信などを実現でき、実装面積の削減と機器の小型化に貢献する。さらに、独自の低電力設計を採用しており、長時間のバッテリ駆動を必要とするウェアラブル端末などに適している。高精度のADCを搭載しており、脈波や心電などを測定する外部センサから取り込んだ情報を処理することもできる。

TZ1200シリーズは、低消費電力で多彩なグラフィック表示が可能なIoTやウェアラブル端末に向けたプロセッサである。最大120MHz駆動のCortex-M4Fを搭載し、スムーズな描画を実現するための2Dグラフィックスエンジン、データやプログラムのセキュリティを確保するための暗号化機能、データを圧縮/解凍するハードウェアや2.2MBの大容量高速メモリも内蔵している。またTZ1000でも搭載した高精度のADCもインピーダンス測定に必要な計算能力に対応するなど機能拡張をおこなっている。TZ1000同様に70uA/MHzの低アクティブ電流で動作することからグラフィカルIFを充実させたスマートウォッチ、高機能ヘルスケアリストバンド、活動量計などの各種IoT製品やウェアラブル端末などに向いている。

音声ガイダンス機能の導入を後押しする東芝独自技術「RECAIUS™ ToSpeak™(以下ToSpeak)」

TZ2100は、その高い表示機能により、スマート家電も今後のターゲットになる。スマート家電やパネル制御機器は機能的にリッチになりつつあり、従来のマイコンでの制御では性能的に足りなくなってきている。東芝には、据え置き型のカーナビゲーションシステムで圧倒的なシェアを誇る音声合成ミドルウェアの「ToSpeak」に加え、研究所で開発中の音声コマンド検出用の音声認識ミドルウェアがある。「現在、これらのミドルウェアをTZ2100に移植して、音声ガイダンス機能の導入を考えているお客様へのご紹介を始めています。デモは、実際のスマート家電を意識したものとなっており、いくつかの会社様に評価していただいています」(尾鷲氏)。

ToSpeakは、東芝の独自技術によって音質のバラツキを抑え、安定したなめらかな読み上げができる。声のデータベースである音声素片辞書が必要になるが、それを数メガバイト規模のメモリサイズでもクリアで自然な音質を実現している。さらに、コンパクトで端末側でも稼働できるため、クラウドソリューションで起こりがちなネットワークによる遅れもない。すでにカーナビゲーションシステム、フィーチャーフォン、スマートフォン、タブレット、電子辞書、ゲーム機器、音楽プレーヤーなど、多様な電子機器への採用実績がある。最新のToSpeak G3は、米英語、日本語、ハングル語、北京語の多言語対応のパッケージもある。

「ToSpeakはARM® ARM9™以上のキャッシュのあるプロセッサが対象となります。もちろんTZ2000やTZ2100であれば余裕を持ってお使いいただけます。必要な計算能力はToSpeakで120MIPS、Voice Triggerで70MIPS程度ですので、双方で200MIPS程度です。これ以外に同時通信などを行ってもCPUパワーには余裕があります」(尾鷲氏)。この2つのミドルウェアを組み合わせたデモを見たが、不特定話者でも問題なく、スムーズな認識と早い発音が印象的だった。P.19ページ右上のQRコードから動画にてデモが見られるので、是非ご覧いただきたい。

「ApP LiteはIoTのコンセプトがあるのでTZ1000をエッジ側とし、TZ2100をゲートウェイとしてネットワークに流していくものとして位置づけます。この組み合わせでIoTのエッジからクラウドまでスケーラブルなシステムを提案していきます」(前納氏)と結んだ。利用用途を絞り込み、他社との差異化を意識した東芝ならではのプロセッサソリューションに今後も注目していきたい。

  • ※ARM、CortexはARM Limited(またはその子会社)のEUまたはその他の国における登録商標です。ARM9は、ARM Limited(またはその子会社)のEUまたはその他の国における商標です。
  • ※Linuxは、Linus Torvalds氏の日本およびその他の国における登録商標または商標です。
  • ※Wi-FiはWi-Fi Allianceの登録商標です。
  • ※Bluetoothは、Bluetooth SIG, Inc.の登録商標です。
  • ※RECAIUS、ToSpeakおよびApP Liteは株式会社東芝の商標です。
  • ※その他の社名・商品名・サービス名などは、それぞれ各社が商標として使用している場合があります。

APS EYE'S

ユーザーの声を一つ一つ拾い上げ、作り上げた集大成が「ApP Lite」。今の時代では、IoTに向けたスケーラブルな戦略の一つに見えるかもしれないが、実際には東芝がこれまで築き上げてきたきめ細やかな対応が、このTZシリーズに集約されてきたのだと思う。