ACサーボモータ制御の最適解。東芝のベクトルエンジン

ロボットの関節を動かすモータとして期待されているACサーボモータは、ステッピングモータと比較して高精度な位置制御、低消費電力、高トルク出力を実現できる。東芝は長年モータ制御に取り組んできており、ACサーボモータの制御に不可欠なベクトル制御実現するベクトルエンジン(VE)をハードウェアIP化している。ここでは、東芝のモータ制御ソリューションについて聞いた。

メインイメージ
集合写真(後列左より)
東芝マイクロエレクトロニクス株式会社
ミックスシグナルコントローラ統括部 ミックスシグナルコントローラ応用技術部 ミックスシグナルコントローラ応用技術第二担当 主務 廣里 暢盛 氏
モータソリューション技術部 主務 佐藤 邦彦 氏
モータソリューション技術部 主務 保坂 晴哉 氏
モータソリューション技術部 主務 花房 一貴 氏
モータソリューション技術部 部長 外山 浩昭 氏
(前列左より)
モータソリューション技術部 岡部 由美 氏
モータソリューション技術部 主務 鈴木 信行 氏
モータソリューション技術部 主務 三枝 昭久 氏

インバータ制御には32ビットマイコン並の性能が必要

さまざまな製品でモータが使用され、その重要性が年々高まっている。産業界で幅広く使われているACサーボモータの制御は、従来はマイコン+FPGAやASICという構成で行われていた。近年、ACサーボモータを家電製品や家庭用ロボットにも使いたいというニーズが高まっている。しかしながら従来の構成では、民生市場での価格競争に勝ち残ることは難しい。

ACサーボモータとは、回転が一定方向ではなく、ある角度で少し動いたり、反転したり、細かな位置を制御できるものだ。「ACサーボモータはDCブラシレスモータを使って実現しています。サーボはACに掛かっており、モータとしては同じです。モータ自体はDCブラシレスモータなので、東芝の持っているベクトルエンジンの制御技術がここでも活きてきます」(鈴木氏)。

東芝は長年にわたってモータ本体やモータコントローラ、ドライバICなどを手がけてきた実績がある。なかでも、DCブラシレスモータやACサーボモータの制御に不可欠なベクトル制御をハードウェアIP化したマイコンを提供している。それが、Arm® Cortex®-M3をコアとするTMPM370シリーズ(TX03)やArm Cortex-M4(FPU機能搭載)をコアとするTMPM470シリーズ(TX04)である。

図1は、東芝のモータ制御におけるソリューションマップである。幅広い電流と電圧に応じてアプリケーション別に用意されている。

図1

図1:電圧、電流に応じたアプリケーション別のソリューションを幅広く準備している。※文中の該当基板・スタータキット(A〜H参照)

「たとえば、大電流対応はスイッチを多く用意したもの(図1:A)、マイコンの付け替えができるなど、アプリケーションを特定せずに使えるものとして2〜3年前から準備していました。これに加えて、ロボット、エアコン、洗濯機などに特化したものも併せて用意しています。もちろん初期検討や学習などに使えるスタータキット(図1:B)も充実させています」(鈴木氏)。

まずは汎用的なものから始め、市場の動向を見ながらアプリケーションに特化したものを用意してきた。「たとえば、エアコンであれば昇圧回路を付けたもの(図1:C)を、全自動洗濯機であれば安価な片面の紙基板が使われることが多いことから、片面の紙フェノール基板(図1:D)を用意しています」(鈴木氏)。さらに、「ワールドワイドで見ると、ターンキーソリューションが求められることが多いため、製品ごとに各種用意しています」(佐藤氏)という。

図1にある超小型基板M37A-R2(図1:E)は、Cortex-M3をコアとするTMPM37AFSQGを搭載した25mm角の基板である。TMPM37Aは、わずか5mm角のなかにプリドライバ、オペアンプ、コンパレータ、内蔵レギュレータ内蔵発振子が搭載されている。「この小さなマイコンでファンモータを動かすボードを作ってみようと、わずか25mm角のボードを作りました。サイズ優先で作ったので、FETの近くにマイコンがあって電流を大きく流すと熱が発生する問題がありました」(外山氏)。

そこで、各種シミュレータを提供しているサイバネットシステム社に依頼して、基板の熱解析(図2)を行った結果、基板に並ぶ3つのFETうち、中央のFETが左右のFETに影響されて熱を持ち、この熱がマイコンに影響することがわかった。これは実際の基板上の実測でも、同様の傾向が確認された。「サイズ優先のレイアウトのため仕方なかった点はありますが、まずはモータを動かすという初期評価には十分だったと思います。また、シュミレータによる熱解析も有効である事が確認できました」(外山氏)。

図2

図2:サイバネットシステム社が提供するANSYS Icepakを用いた基板熱解析の例

その後、設計を見直しドーナツ型へ再設計した(図1:F)。「東芝で一番大きな電流容量の2inのパッケージFETとし、マイコンもFETから離してレイアウトし直しました。25mm角のものと比べて大きな電流を流してもモータを駆動できています」(佐藤氏)。「こちらは評価用ですがリファレンスモデルとしてご提供できます。お客様の評価環境で、FETの配置を離したり電流容量を設定するなど、ブラッシュアップはもとより、試作の回数を減らすことができるため大変好評です」(鈴木氏)。

ドーナツ型の基板はサーバファン向けのものだ。「サーバは使用状況によって発熱量が変わるため、サーバの発熱量に応じて風量をコントロールして省エネを実現します。ベクトルエンジンを内蔵した東芝のマイコンが、ここでも効果を発揮します」(鈴木氏)。さらに「家の換気用のファンをコントロールするといったニーズがあります。海外では適正量の換気量の維持が求められており、ここでもベクトルエンジンが注目されています」(三枝氏)という。

ACサーボモータの小型化で問題となるリップルの課題を解決

ACサーボモータは、正確な位置決めが必要なアプリケーションに向く。たとえば、精密XY ステージや多軸のアームロボット、さらにはヒューマノイドロボットなどだ。「同じような処理はステッピングモータでも可能ですが、ACサーボモータの方が、高精度な位置制御、低消費電力、高トルク出力を実現できます」(三枝氏)。

ACサーボモータの特長から、産業系で強まっているモータの小型化へのニーズにも応えることができる。「ACサーボモータは、モータを小さくするとインダクタンス成分も小さくなるため、モータの電流リップルが大きくなってしまいます。リップルを抑えるにはPWMの周期を短くする必要があります」(鈴木氏)。

リップルを抑えるには50k〜100kHz程度の高いPWM周波数で制御した方が良いのだが、ソフトウェアだけで対応しようすると高性能なマイコンが必要になる。コストアップはもちろん、周波数が高くなることで発熱量が増加するなど、さまざまな問題を抱えることになる。たとえば50kHzであれば20μsecとなり、その時間内にモータ制御を終わらせる必要がある。「最近のCPUは処理能力が高くなってきてはいますが、余裕があるわけではありません。ベクトルエンジンであれば高速のPWM周波数でも短時間でモータ制御を終わらせることができます。制御周期が短ければ分解能が細かくなるので、位置制御の高精度化も実現できます」(鈴木氏)。

ベクトルエンジンが非搭載の場合では、高い周波数で動作する高性能マイコン+FPGAで構成するか、位置制御の計算を10回に1回に間引くなど、ソフトウェアで対応することはできるが現実的ではない。また、ベクトルエンジンを搭載していれば、通信や周辺制御などモータ制御以外でもCPUパワーを使うことができる。例えば、ロボティクスは好例だろう。「ロボティクスをやっている人は、モータを動かすということに興味はなく、指令のとおり動いてくれればいいわけです。モータ制御という余計な工数を掛けたくないというのが本音でしょう」(鈴木氏)。

同じような処理をステッピングモータでやらせることもできるが、ある電圧で固定しているので、耐えられなくなると外れてしまう。ACサーボモータの位置フィードバック制御であれば、定格内であれば電流を増やすことで耐えることができる。

通信で指令を送ることで容易に多軸制御を実現

ベクトルエンジンを活用することでCPUパワーを別の処理に使える。図3は、TMPM470を搭載したロボット向けACサーボモータ制御システム(図1:Gの基盤を使用した)のデモである。「マスター基板と2枚のスレーブ基板があり、それぞれのマイコンをRS-485のUARTで接続しています。マスター基板から動作角度の指令をスレーブ基板に送っており、それを元にモータを制御しています」(鈴木氏)。ロボットは、多軸制御が主流になっており、このデモのように通信で指令を送ることで容易に実現できる。

図3

図3:ロボット向けACサーボモータ制御システムのデモ例。モータ制御と通信を両立。

「これまではベクトルエンジンは、ソフトウェアの制御を単純にハードウェアに置き換えただけじゃないかとソフトウェアエンジニアから敬遠されていた時期もありました。しかし、ACサーボモータ制御であれば、ベクトルエンジンは有効に使っていただけます。ようやく時代が追いついた感じです」(外山氏)。

リファレンスデザインとして図1の右上にある基板はエアコンを想定し、ファンモータ、コンプレッサの2つのモータに加え、3相インターリーブPFC(Power Factor Correction)回路を搭載(図1:C)している。従来では、100ピンクラスのマイコンを使用し、モータを2台制御しておりコストがかかっていた。「そこで、新しいマイコンファミリであるTXZファミリのモータ駆動用の第一段となるTMPM4Kグループであれば、64ピンでもモータを回すためのPMDタイマを2つ搭載しています。そのため、モータ2台とタイマで制御できるPFC回路も同時に動作させられるため、新興国などをターゲットとしたローコストインバータのターンキーソリューション(図1:H)になります」(鈴木氏)。今後も、ハイスペックなニーズに対応していく予定である。

規制が強化されてきている安全基準にも配慮

近年、システムに関する安全基準がこれまでより強化されてきている。欧州家電安全規格においては、エアコンのインバータ化はもちろん、冷蔵庫や洗濯機でもインバータ化に伴い、規制が強化されている。それをデバイスとして対応するには、自己診断機能はもちろんのこと、耐ノイズ性能などが求められる。

「安全機能については、ハードウェアとソフトウェアの両面から対応しています。ウォッチドッグタイマだけでなくハードウェアでCPUクロックを監視する機能を標準装備することや、チェックサムやCRCなどのメモリの自己診断用のソフトウェアライブラリを用意しています」(外山氏)。

さらに、高調波ノイズ抑制についてはPFCによる力率改善が必要であり、エアコンには必須の機能である。冷蔵庫においても高調波を抑制することが必須になりつつあり、これらはPFC回路を導入することで改善が期待できる。「PFC回路はマイコンでコントロールしているため、モータ制御を行いながらPFC回路をコントロールするとなれば、東芝のベクトルエンジン搭載マイコンが選択肢から外れることはないと考えています」(外山氏)。

今後も進化を続ける東芝のモータ制御ソリューションに注目していきたい。

APS EYE'S

DCブラシレスモータでACサーボを実現するためには、高精度なPWM制御が必要だ。それを可能にするにはH/Wによるベクトル制御が必要不可欠だ。東芝のTXZシリーズだけでなくドライバやモータ自体も進化を遂げることで、次世代のモータソリューションが拓けてくる。