VAB-820:VIAとMicrosoftが一致協力、AI時代に向けた新たな取り組みを開始。

Microsoftの組み込み向けOS「Windows 10 IoT Core」は2018年10月のバージョンアップにて、NXP Semiconductorsのi.MXプロセッサの正式サポートを開始した。VIAは、車載や医療などの分野で実績のある自社のi.MX6搭載ボード「VAB-820」へ、いち早くWindows 10 IoTをポーティング。Microsoft Azureクラウドサービスとの親和性を武器に、組み込み市場におけるシェア拡大を狙う。両社は連携してハンズオンセミナーなどを開催している。ここでは、協業の内容、およびIoT市場やAI市場への展開などについて、両社に話を聞いた。

メインイメージ
集合写真(前列左より)
日本マイクロソフト株式会社 業務執行役員 コンシューマー&デバイス事業本部 デバイスパートナー営業統括本部IoTデバイス本部 本部長 菖蒲谷 雄 氏
VIA Technologies, Inc. Marketing VP, VIA Embedded – Marketing Richard Brown 氏
集合写真(後列左より)
VIA Technologies Japan株式会社 エンベデッド事業部 プロダクトマネージャー Cody 世羅 氏
VIA Technologies Japan株式会社 エンベデッド事業部 日本統括マネージャー Sonia 陳 氏
VIA Technologies Japan株式会社 エンベデッド事業部 アシスタントマネージャー 小間 拓実 氏

VIAのNXP i.MXボードがWindows 10 IoT Coreに対応

――今回の提携の内容は?

菖蒲谷(日本マイクロソフト):「Windows 10 IoT Core(以下、IoT Core)」という組み込みOSについての提携です。弊社は2018年10月初めに、IoT Coreの新バージョン“October 2018 Update(RS5)”をリリースしました。このバージョンの特徴は、従来のx86プロセッサやQualcomm DragonBoardþ、Raspberry Piに加えて、NXP Semiconductors社のi.MXプロセッサの上でも動くようになったことです。この新バージョンにいち早く対応していただいたのが、i.MX6を搭載した組み込みボードを出荷しているVIA Technologies社です。

小間(VIA):当社の開発部門は、October 2018 Updateの公開直後からポーティング作業を始め、半月ほどでデモできる形に仕上げて、2018年10月18~19日に台湾で開催されたWinHEC(Windows Hardware Engineering Community)というイベントで参考展示しました。

菖蒲谷:IoT Coreそのものは、デスクトップ向けWindows 10と共に、2015年にリリースされたOSです。ただし2018年10月以前は、業務向けの組み込みボードや組み込み機器に導入していただくための体制が整っていませんでした。新バージョンでOSの機能にいくつかの改変を施し、業務向けの機器にも搭載していただけるようになりました。これをきっかけにVIA社のボードに対応していただき、今回の協業が始まりました。

――両社の役割分担は?

菖蒲谷:OSのコーディングは、もちろん弊社が行います。VIA社は、ファームウェアにあたるBSP(board support package)を作成し、顧客に提供します。BSPの中には、チップセット、およびボードに載っているさまざまな周辺機器のドライバソフトウェアが含まれます。

――Microsoft社とVIA社は、以前から協力関係にあります。

Richard(VIA):台湾の主要なチップセットベンダやCPUベンダ、OEM企業は、認証プログラムを通してMicrosoft社と非常に緊密な関係を結んでいます。当社も、長年、Microsoft社といっしょに仕事をしています。

――過去の協業の具体例は?

Richard:例えば、当社は昔からx86のチップセットやプロセッサを開発していますが、それらを搭載したボードやシステムに対するWHQL認証(Windows用ドライバの互換性テスト)の取得、あるいはプラグアンドプレイ仕様の評価などを共同で行ってきました。少なくとも20年以上にわたって、協力しています。

――今回の両社の取り組みが、従来のWindows OSのサポートと異なるところはありますか?

Cody(VIA):従来は、主に当社が開発しているx86チップセットとWindows OSの連携にかかわるものでした。一方、今回のお話しは、自社開発のチップセットではなく、外部調達のi.MX6とWindows OSの連携です。Arm®ボード製品についての協業は、今回が初めてです。その意味で、従来とは異なる協力関係だと思います。

Azureのサービスを利用すれば、2日で顔認識を実現できる

――今回の提携の対象となったVIA社の製品について教えてください。

Cody:「VAB-820」という組み込みボードです。Pico-ITX(10cm×7.2cm)のフォームファクタに、Cortex-A9コアを4個内蔵した「i.MX 6QuadPlus/Quad」、または2個内蔵した「i.MX 6 DualLite」を装備しています。

――このボードはいつから出荷していますか?

Cody:2016年からです。温度要求が厳しい車載機器や長期安定供給が求められる医療機器などの分野で、幅広く採用されています。

――従来はLinuxやAndroidに対応していたのですか?

Cody:そうです。今回の協業により、Linuxの経験がなく、Androidも採用が難しいような顧客に、VAB-820とIoT Coreをもう1つの選択肢として挙げられるようになりました。

――どのようなデモを行っているのでしょう?

Cody:顔認識です(図1)。IoT Core上で簡単なアプリケーションソフトウェアを実行し、その場でキャプチャした画像をAzureサーバへ送って、サーバ上で顔認識の画像処理を行っています。APIなどのライブラリはすべて、Microsoft社から提供されたものを使いました。

図図1:VAB-820とWindows 10 IoT Coreにより、クラウドを使った顔認識システムを簡単に開発できます。

――顔認識アプリの作成に、どのくらいの期間がかかりますか?

小間:2018年12月に、日本マイクロソフトと共同でハンズオン(実習付き)セミナを開催したのですが、このときはOSの構築から簡単なアプリのポーティングまで、2日間で行いました。これと同じくらいの期間で、顔認識のシステムも動かせると思います。

――ボードとクラウド環境を連携させる作業は大変でしたか?

Cody:デモアプリを開発するという観点では、作業は非常に楽でした。IoT Core上で動くアプリケーションの開発は当社の作業ですが、それ以外の処理はすべてMicrosoft社のクラウド環境で実行しています。しかも、顔認識だけでなく、機械学習などのAPIがすべて提供されています。当社は使い方のシーンを考え、UIを変えただけで、デモシステムが出来上がりました。

小間:当社から見て使いやすいということは、このボードを実際に導入するユーザにとっても使いやすい、と言えます。

――顧客の反応は?

Cody:実際に提供を始めて、まだ2~3カ月しかたっていませんが、多くの企業からお問い合わせをいただいております。

Sonia(VIA):当社は、「クラウドにつなげる簡単な方法やいいサービスがないか」という相談を、よく受けます。そのため、IoTシステムの構築では、ボードや端末機器を提供するだけでなく、エッジコンピューティングやクラウドサービスまで含めて包括的にサポートする必要がある、と感じていました。Microsoft社のクラウドサービスは、単にサーバに接続するだけではなく、AIや機械学習など、広範なサービスを提供しています。また、Microsoft社のブランドは信頼できるので、顧客やパートナ企業に紹介しやすくなりました(図2)。

菖蒲谷:今回のバージョンから、IoT CoreにLTSC(Long-Term Servicing Channel)の10年サポートが付くようになりました。また、Windows Updateを半強制的に実行するのではなく、機器ベンダがコントロールできる形で、ソフトウェアモジュールの更新を管理できるようにしました。組み込み系の顧客にとって使いやすくなったと思います。

図図2:VAB-820上 Windows 10 IoT の起動画面と、利用できる様々なアプリケーション。

――現在、LinuxやAndroidを使っている顧客が興味を持っているのでしょうか?

Cody:現在、Linuxを使っているユーザが、それを満足して使っているのかというと、必ずしもそうではないように見えます。Linuxだと本当にコストを“タダ”にできるのか? という点だけでも、かなりもめます。大企業であれば、自社のコンプライアンスの下でLinuxを使えるのか、という問題もあります。部署によって、あるいは人によって認識が違っていたりすることもあります。

――オープンソースOS特有の問題ですね。

Cody:実際、Linuxを使っているけれど、サポートその他でいろいろと問題が出てきた、という相談はよく受けます。これに対して、Microsoft社のOSであれば、ライセンス面などの問題はありません。きちんとしたルールがあり、しっかりとサポートされています。

両社の連携・協力で、「みんなのAI」を組み込み業界へ

――Microsoft社のIoTやAIに対する方針を教えてください。

菖蒲谷:ひと言でいうと「ハイブリッド」です。クラウド側で処理するIoTも、エッジ側で処理するIoTも、それらの組み合わせも、すべて必要、と考えています。3~4年前は、IoTの処理を全部クラウドへ持っていこうという流れが主流でしたが、現在そう簡単でないことが分かってきています。クラウドはクラウドでうまく生かしつつ、エッジコンピューティングをどう活用するか、という課題に、弊社は真剣に取り組んでいます。

――クラウドとエッジの両方のサービスを提供するということですか?

菖蒲谷:クラウドで行っているサービス、例えばセキュリティのフレームワークだったり、ID管理だったり、いろいろな要素を、クラウドかエッジかを意識することなく、シームレスに動かせる仕組みを考えています。

――VIA社のようなハードウェアベンダは、Microsoft社のIoTの取り組みにどうかかわってくるのでしょう?

菖蒲谷:ハードウェアパートナとの連携という側面で、一番、キーになるのがAzure IoT Edgeの認証です。これは、IoT Hubという当社のクラウド上のIoT機能の受け口となるサービスに接続でき、さらに当社が提供するエッジコンピューティングのモジュールがきちんと動くことを確認していただくものです。

Cody:当社の製品では、Qualcomm社のAPQ8096SGを搭載した組み込みモジュール「SOM-9X20」、x86プロセッサを搭載した組み込みPCの「AMOS-3005」と「ARTiGO A1250」がAzure IoT Edge認証を取得しています。

――組み込み業界は、伝統的に少人数の開発部署が少なくありません。そのような現場でも、AIやクラウドを活用できますか?

菖蒲谷:弊社のAI部門がよく使っている言葉として、「みんなのAI」があります。つまり、誰でも使えるAIです。APIや学習済みモデルなどを用意して、誰にでも簡単に使ってもらえる、というハードルの低さを売りにしています。

――小規模の会社の成功事例はありますか?

菖蒲谷:伊勢神宮にある小さな食堂の方が、趣味の延長でAIを使って顧客分析を行い、売上がものすごく上がった、という事例があります。「ゑびや マイクロソフト」で検索できます。規模の小さい会社でも、弊社のAIを活用してビジネスのグレードを上げることが可能です。

――IoT Coreについての今後の展開を教えてください。

菖蒲谷:IoT Coreは組み込みOSなので触っていただかないことには、なにも始まりません。そのため、2018年12月にはVIA社と協力してVAB-820を利用したハンズオンセミナを開き、2019年1月には、「IoT In Action Tokyo」という弊社主催のイベントでもVAB-820のデモシステムを紹介しました。今後も続けていきます。

Richard:IoT CoreについてのMicrosoft社との協業は、まだ始まったばかりです。今回の取り組みにより、当社は、ボード単体の提供ではなく、クラウド接続も含めたより広範な顧客のサポートが可能になりました。また、Microsoft社のクラウドサービスを利用すれば、さらに幅広い展開が期待できます。当社は、ハードウェアだけではなく、トータルソリューションを提案できるように、今後も多くのパートナ企業と協力していく方針です。

APS EYE'S

組み込み製品からクラウドAIを活用するには、セキュアで安定した通信機能が不可欠だ。VIAはクラウド時代に最適なエッジデバイスを目指し、Windows 10 IoT Coreを新たにサポート。産業分野で要望の高い10年サポートと、みんなのAIに向けてハードルを下げる一翼を担っている。