AI時代に要求される大電力電源、Power Tabletが小型・高効率化を実現。

Vicor社は、電源モジュールや電源システムを提供している電源専業メーカー。高効率と小型化を両立させた電源製品の開発に定評がある。同社は、2018年10月に薄型のAC-DCコンバータ 「Power Tablet™ - RFM9459」を発表した。三相AC電源に接続すると、最大54Vdc(定電圧)、10kWの電力を出力する。外形は24 cm×15 cm×1.5 cmと、iPad™などの9.7インチタブレットPCより小さい。AI処理を行うデータセンタのサーバラックやスーパーコンピュータの需要を見込む。ここでは、データセンタ分野における電源技術の動向や製品概要について、話を聞いた。

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Vicor Corporation Corporate Vice President Robert Gendron 氏

高効率と小型化を両立、10年前から48V化を推進

――Vicor社は、どのような分野で事業展開をしていますか?

Gendron:Vicorは、1981年に創業し、エネルギー、LED照明、通信、防衛、医療などさまざまな分野で電源事業を展開しています。現在、特に力を入れているのは、非常に高性能のコンピュータを使うデータセンタやAI(人工知能)の領域です。そのほか、2019年は自動車分野にも本格参入していく予定です。

――電源開発の重要なポイントとは?

Gendron:創業時から「高電力密度(小型化)」かつ「高効率」のコンバータを開発することに重点をおいています。独自のスイッチングトポロジーを開発し、モジュール製品から高集積のIC製品へとラインアップを拡げてきました。当社の製品は、他社と同等サイズでも最大の電力を供給可能で、100%に近い高い効率を達成しています。

――高電力密度が要求される機器とは?

Gendron:例えば、LED照明パネルがあげられます。同一サイズのパネルに、より高出力のLEDを、より多く配置することが要求されるためです。また、移動体通信では、4Gから5Gへ移行すると現在の何倍もの処理能力が必要になり、無線装置の大きさは変わらないのに消費電力は増大します。そのほかにも、人工衛星では重量要件が重要になるため、より軽く、より小さい電源が求められます。

――Vicor社は、早い時期から48V電源の普及に力を入れてきたのはなぜですか?

Gendron:10年前、48Vバス方式の電源に関心を持つユーザーはほとんどいませんでしたが、すでに通信機器においては48Vバスが使用されていたため、いずれコンピュータ産業でも大電力供給が容易な48Vバスがスタンダードになる時代がくると予測していました。2010年頃からデータセンタなどで使われるハイエンドのCPU/GPUのピーク電流が増大し、現在では、従来の12Vバスに代わって、大電力を供給しやすい48Vバスに移行しています。

――大電流化に伴う電力損失の問題はありますか?

Gendron:CPU/GPUに供給する電流が増加すると、PoL(Point of Load)電源では、CPU/GPUの間に存在する微小な抵抗が大きな問題を引き起こします。これはプリント基板の配線抵抗で、標準的な電源回路では、たかだか400μΩ程度です。しかし、この微小な抵抗による損失の問題が非常にクリティカルになっています。当社はこれを、“ラストインチ”問題と呼んでいます。

――どのくらいの悪影響を及ぼすのでしょう?

Gendron:PoL電源の出力電流が増加すると、同時に配線抵抗による損失も増加します。この損失は軽視できません。例えば、出力電流が100Aのときの効率は95%ですが、500Aになると75%に低下します。25%の電力が熱となり、過大な電力損失になります。

――解決策は?

Gendron:PoL電源の位置をCPU/GPUに近づけることです。できるだけ“ラストインチ”の抵抗を取り除くことが重要となります。当社は、この問題を解決する為にPoP(Power-on-Package)電源を用いることで、今までマザーボードに搭載していた電圧変換のデバイスを、CPU/GPUサブストレート(基板)上に実装する技術で、“ラストインチ”で発生していた約90%の損失を減らすことができます。

――CPU/GPUサブストレート上に電源ICを配置すると、データ信号の伝送の妨げになりませんか?

Gendron:PoPでは、サブストレートの裏面、つまりCPU/GPUの直下にデバイスを実装し、サブストレートの内層の配線を利用して電源を供給することも可能です。これにより、データ信号については、CPU/GPU(ダイ)の4方向からアクセスできるようになります(図1)。

図図1:Vertical power delivery - 垂直方向のパワー供給。データ信号に4方向からアクセス。

――PoPを採用する際、費用対効果はどうでしょうか?

Gendron:供給電流1A当たりのコストは、従来とほぼ同額か、わずかな上乗せが必要です。費用対効果で考えると、PoPの導入コストが若干高くても、電力損失が減少するので、PoPを導入したほうが長期的なランニングコストが削減できます。

タブレット型の電源を市場投入。データセンタの電力問題を緩和

――データセンタの消費電力量がエネルギー需要全体の約2%に達し、世界的な社会問題となっていますがどれぐらい増加しているのでしょうか?

Gendron:CPU/GPU単体の消費電力も増加していますが、同時にデータセンタのサーバラックに供給する電力も、2010年ころから急峻に増加しており、2025年には250kWを超えると予測されています。

――なぜ、サーバラックの電力が急増しているのでしょう?

Gendron:かつてのデータセンタは、Webサービスやメールサービスなど、比較的負荷の軽い処理を実行していました。これに対して、最近のデータセンタは、ビジュアルレンダリングや機械学習、データマイニングなど高度な処理をしています。例えばサーバラック内では、低消費電力の汎用CPUに加え、高性能なAIプロセッサ(GPUやニューラルネットワークプロセッサなど)が稼働することにより、サーバラックの消費電力が、10年前の5kWから現在の200kWへ増加しました。

――Vicorの対応は?

Gendron:当社は、2018年10月に「Power Tablet」(図2)と呼ぶユニークなAC-DC電源ユニットを発表しました。寸法は9.7インチのタブレットPC(iPadなど)より小さいサイズでありながら、三相のACから、最大54Vdc(定電圧)、10kWの電力を供給します。

図図2:10kW AC-DC電源ユニット 「Power Tablet(RFM9459)」。三相AC入力、最大54Vdc定電圧出力。外形寸法は24cm×15cm×1.5cm。

――電源をタブレット形状にする利点は?

Gendron:ラックの中のAC-DC電源の配置に自由度が生まれます。Power Tabletは、従来のようにサーバモジュールの基板上に実装することもできますし、ラックの四方の壁面に垂直に設置することもできます。後者の方法だと、Power Tabletから発生した熱を直接ラックへ逃がせます。

――サーバの熱設計が楽になりそうですね。

Gendron:従来のAC電源は、基板上にディスクリート部品が並んでいます。側面から見ると、ちょうど都会の高層ビル街のように、高さの異なる部品が並ぶことになります。そのため、冷却プレートなどを使って冷やす際には、なんらかの工夫が必要でした。しかし、VicorのPower Tabletは平板な形状なため、冷却プレートとの接続が非常に容易になります。

――スーパーコンピュータの電源には使えますか?

Gendron:スーパーコンピュータメーカーで当社のPower Tabletをご採用頂いているお客様の事例をお話しますと、複数のPower Tabletを液体直接浸漬方式(不活性液体の中に沈めて冷却する方式)の冷却槽の底に、フロアタイルのように敷き詰めて使われています。仮に、既存のAC-DC電源を使って同様のシステムを作ると、冷却槽の約1/4の容積がAC-DC電源により占拠されます。

――Power Tabletは、具体的にどのような技術で実現されましたか?

Gendron:当社が持つ「パッケージング」、「スイッチングトポロジ」、「プレート型の磁気デバイス」、「パワーMOSFET」の技術を結集して実現しました。

――特殊なパッケージング技術を使っているのでしょうか?

Gendron:SM-ChiP(Surface Mount-Converter housed in Package)と呼ぶ、Vicor独自の3次元実装の技術を使っています。中央にプリント基板があり、その上下に部品やICを実装したあと、全体を樹脂モールドで覆ったものです。これは、PoPのパッケージングにも適用しています。この技術により、薄くて平らな電源ユニットを実現することができました。

――サーバラックの電源には可用性(継続して稼働する能力)への対応は?

Gendron:Power Tabletは、冗長化構成で動かすことが可能です。例えばN+1冗長(動作に必要な台数に対して、1台余分に追加した構成)やN+2冗長の電源システムを構築できます。

電源の分かる技術者が減少、オンラインツールでユーザーを支援

――日本では、電源システム設計に必要な知識を持った技術者が減ってきているように見えます。

Gendron:日本だけでなく、世界的に同じような傾向で、電源の知識やノウハウを持つ技術者が減ってきていると感じることは多いです。

――電源システムの品質低下の懸念がありますがが、いかがでしょうか?

Gendron:この問題に対応するため、当社は、より集積度の高い、それ自体で機能が完結した電源製品の開発に取り組んでいます。また、電源設計を支援するオンラインツールの整備にも投資しています。集積度の高い電源製品と設計支援ツールをセットで提供することにより、ユーザーの開発現場で、高いレベルの電源品質を確保できると考えています。

――どのようなオンラインツールがありますか?

Gendron:Web上で部品選定のサポートが可能な「Power System Designer」、回路図の作成及び、電力効率や基板面積などの見積がとれる「PowerBench Whiteboard」、部品の性能や熱特性解析ができる「Product Simulators」が当社ウェブサイトでご利用いただけます。初心者からエキスパートの電源技術者まで幅広く、こうしたツールを活用していただければと思います。

――電源のエキスパートは、どのように育成すればよいのでしょう?

Gendron:電源のエキスパートを育てることは、Vicorだけでなく電源業界にとって大きな課題の一つです。当社では2018年に台湾で社外のお客様を招待して48V電源のセミナーを実施しており、今年は日本でもこのような活動を予定しています。また、社内では若手のエンジニアを集めて、講習会を開くなどの取り組みをしています。

引き続きプロセッサの進化と顧客の電力需要に追随

――2020年以降も、プロセッサやサーバラックに必要となる電力は増え続けていくのでしょうか?

Gendron:半導体の製造プロセスは、年々微細化が進んでいます。プロセスノードが小さくなるにつれて、消費電力は増加します。このトレンドは、今後も続きます。現在、7nmのプロセスが立ち上がり、これまでになく高集積のプロセッサを製造できるようになっています。その一方で、こうしたプロセッサには、非常に大きな電流を供給する必要があり、消費電力は劇的に増加します。この需要に追随し、プロセッサに十分な電力を供給し続けることは電源メーカーの責務です。

――2020年以降も、必要な電力を供給できるということですね。

Gendron:Vicorでは可能だと考えています。あらゆる産業、データセンタ、自動車、LED照明、通信、防衛などで消費電力の増加が課題となっていますが、製造企業は大電力供給のシステムを当社に求めている、と認識しています。

APS EYE'S

クラウドサービスやAIによるサーバの負荷は、電力増加に比例する。省電力化への流れはあるものの、まだまだ電力は増え続ける。Vicorの電源モジュールPower Tabletは、設置場所も選ばず、大電力を供給できる。これは今後の主流になりそうだ。バリエーションに期待したい。