8点離散フーリエ変換にトライする
前回の例題で使用した連続信号
を今度はT/8秒ごとにサンプリングして、離散信号にします。tにを代入して計算します。今後の計算のために列ベクトルの形で書いておきます。
図示すると図1のようになります。
図1:例題信号のサンプリング
離散フーリエ変換の対象となっている離散入力信号が8個あるので、これに対する離散フーリエ変換を「8点の離散フーリエ変換」とか、さらに短縮して「8点DFT」と言ったりします。同様に前回の例題は4点DFTといいます。
これを離散フーリエ変換の公式にいれて、まずはそのまま計算をしてみます。
行列を2つに分け、定数行列Rと入力信号ベクトルの積にします。
カッコの中を計算します
オイラーの公式を使って展開します。
行列のかけ算をすると次のようになります。
ここから各スペクトルを求めると図2のようになります。4点DFTの時とほぼ同じようなスペクトルが得られます。
図2:例題信号の各スペクトル(8点DFT)
定数行列Rの意味を考える
前回説明したように、そして先ほどの8点DFTでも見たように、DFTは定数行列Rをうまく作ってあげれば
という単純なスカラーと行列のかけ算の形で表現することができます。この定数行列Rの意味を紐解いていくと、何点のDFTでもすぐに行うことができるようになりますし、本連載の大きな到達目標である高速フーリエ変換(FFT)にもつながっていきます。
まず、8点DFTの定数行列Rを省略せずにもう一度図3に示します。横方向に0…7と変化している部分と縦方向に0…7と変化している部分があることを再度確認してください。
図3:行列Rの完全版
定数行列Rの各成分は
という形をしています。オイラーの公式
の左辺と比べると
と考えることができるので、行列Rの各成分は
となります。
このθは複素数の角度(偏角)を表しています。わかりやすくするためθの式をすこし変形したものを図4に示します。変数k,nは必ず正整数であることに注意が必要です。
図4:偏角θの読み解き
そしてcosは単位円上にある点のx座標、sinは単位円上にある点のy座標として定義された事を加味すると、は「複素平面上の単位円をN分割した点」を表します。
kn=0の場所(1+0i=単位円と横軸(実軸)の交点)を起点とし、knが1増えるたびに円を2π/N[rad]だけ時計回りに進んだ位置を示します。

図5:回転因子のふるまい
これ以降、回転因子を簡単に書くための省略記法を導入します。(複素平面上の)単位円が横軸(主軸)と交わる点を起点として、単位円をN分割した点を時計回りに数え、M番目の点を
省略記法を使って8点DFT(N=8)の回転因子行列Rを書くと次のようになります。
回転因子行列Rには規則性があります。まず大きさはN行N列であり、回転因子の指数は1行目・1列目が0固定です。2行目は左から1ずつ指数が増え、3行目は左から2ずつ指数が増え…N行目は左から(N-1)ずつ指数が増えます(図6)。

図6:回転因子行列の規則性
図6で示しているのはN=8の例ですが、その他のNでも同様です(Nは2以上の正整数です。後述するFFTで使用する都合上、通常は2のべき乗(2,4,8,16,32…)を使用します)。
これを「回転」という観点で図示すると図7のようになります。

図7:回転因子行列の図示
各行を、左から右に向かって時間が進むと考えると、下に行くほど「速い回転」を表していることがご理解いただけるでしょうか。より正確に言うならば、1行下に行くにつれて回転の角速度が
同様に4点DFT(N=4)の回転因子行列を表すと図8のようになります。

図8:4点DFTの回転因子行列
回転因子Wの指数が持っている規則性を理解すると、あとは16点DFTでも32点DFTでも512点DFTでも・・・機械的に回転因子行列を作ることができるようになります。
次回は、DFTで求めたスペクトルの読み方について詳しく説明します。
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