弧度法の世界
角度を表すとき、私たちは一般に円一周を360分割して単位[°]をつけた度数法を使用しています。
数学の世界では度数法ではなく、弧度(こど)法という角度表現を用いることが一般的です。弧度法の単位は[rad]で、ラジアンまたはラディアンと読みます。円一周の角度を2π[rad]と定義する表現方法で、これは半径が1である円(単位円)をある角度で扇形に切り取ったとき、その中心角度を切り取った扇の外周の長さで表現する事に相当します。
0[°]から360[°]までの主要な角度に対応する[rad]の値を表1にまとめます。
もちろん、角度が2π以上になったり、マイナスの値になっても構いません。具体的な例をいくつか図に示します。
三角関数の引数(角度)も、単位なしで書かれている場合は通常ラジアンとして取り扱います。以前紹介した三角関数の表をラジアン表記にして再掲します。
世界で最も美しい公式
オイラーの公式とオイラーの等式
本連載の準備編で、「複素数」と「三角関数」をそれぞれ紹介しました。一方は高次方程式を解くために作られた人工の数、もう一方は直角三角形の観察から生まれた関数で、両者の間には一見何のつながりもなさそうにみえます。
ところが、18世紀に数多くの成果(一説では人類史上最も多くの論文を書いたともいわれる)を残した数学者レオンハルト・オイラーは、複素数(より正確には複素指数関数)と三角関数の間に密接な関係があることを発見しました。この関係を表す式は後に「オイラーの公式」と呼ばれるようになります。オイラーの公式は数学の中で様々に応用される大変実用的な公式です。ノーベル物理学賞受賞者のリチャード・ファインマンはこの公式を
「我々の至宝」かつ「すべての数学のなかでもっとも素晴らしい公式」
だと述べています。
オイラーの公式は実用的なだけでなく美しい式でもあります。(正しく導かれ、有用な公式や数式というのはたいてい美しいものです…不思議なことに。)
オイラーの公式に円周率πを代入し、ほんの少し変形してあげるだけで、無理数の代表であるe(自然対数の底・ネイピア数)とπ(円周率)、そして虚数単位i、整数の基本要素である0と1が結びつく等式が得られます。この等式は特に「オイラーの等式」と呼ばれ、世界で最も美しい公式と言われています。小川洋子氏の書いたベストセラーで映画化もされた『 博士の愛した数式』という作品がありますが、この「博士の愛した数式」こそ、このオイラーの等式を意味しています。
ちょっと余談: 0と1が特別な理由
オイラーの等式を紹介する中でさらっと「整数の基本要素である0と1」と書きました。この意味を少し紹介しておきます。
抽象代数学という、数学の世界における「計算」や「数字」という概念そのものについて考察する分野があります。その中に「単位元(たんいげん)」または「中立元(ちゅうりつげん)」という考え方があります。
ある〈数〉の全体が集まった集合Mと、そのMの中で機能する二項演算◆があったとき、単位源eはMのすべての要素mに対して
m ◆ e = e ◆ m = m
という関係を満たす特別な値の事を指します。つまり、◆という演算を行ったにもかかわらず、結果が変化しないということです。
整数(実数でもいいですが)という集合Mに対して、加法(+)に関する単位元(加法単位元)は0(ゼロ)です。すなわち
m + 0 = 0 + m = m
です。同じく、乗法(×)に関する単位元(乗法単位元)は1です。すなわち
m × 1 = 1 × m = m
です。
オイラーの等式が本当に成り立つかどうか、 Wolfram Alphaを使って確認してみましょう。まずはオイラーの等式の左辺を計算させてみます。eのべき乗(指数関数)はexp()で計算ができるので、図のようになります。確かに-1という結果になりました。
オイラーの等式の右辺はどうでしょうか。同様に式を入力して計算すると図のようになり、やはり-1であることが確認できます。
他の角度でも等式が成り立つか確認してみましょう。例えばθ=1/4πを代入してみると、図のようになります。「厳密な結果」欄の表記は異なっていますが、「近似値」の欄はぴったり一致しており、同じ値であることがわかります。
Maximaでも計算が可能です(Maximaの場合、虚数単位iや円周率piには、定数を表す記号%を先頭につける必要がある事に注意して下さい)。まずはオイラーの等式の例です。
オイラーの公式にθ=1/4πを代入した例も同様に計算可能です。右辺・左辺の値が一致していることがわかります。一見Wolfram Alphaの出力結果と異なるように見えるかもしれませんが、分母をまとめて1つの分数にすれば同じ値です。
複素形式の三角関数
オイラーの公式を変形すると、三角関数(サイン・コサイン)を複素数を使って表現することができます。
とりあえず公式として丸覚えするのでも構いませんが、オイラーの公式を覚えていれば導出はそれほど難しくありませんので、紹介しておきます。
まず三角関数sinθとcosθ、そして角度の符号を反転したsin(-θ)とcos(-θ)を考えます。拡張した三角関数で示したように、単位円を使ってこれらの値を図示してみます。
図のように、cos(-θ)とcosθは同じ値、sin(-θ)とsinθは符号が異なる事がわかります。この関係はいかなるθについても成り立ちます。
オイラーの公式(図内式(1))と、オイラーの公式をθ=-θとして書き直したもの(図内式(2))を用意します。これらの式を足し合わせるとsinθを含む項が消えてcosθだけが残り、逆にこれらの式を引き算するとcosθを含む項が消えてsinθだけが残ります。それぞれを移項して整理することで、sinθとcosθの複素表記が得られます。
これも実際に計算して試してみましょう。θ=π/6を例にして、三角関数の複素表記が本当に正しいかどうか確認してみたいと思います。
まずはWolfram Alphaを使った確認を図に示します。まずは普通にcos(π/6)を求めた例です。
そして、cosを複素表記で計算した例です。さすがに複雑な計算なので「厳密な結果」欄は表記が異なりますが、近似値は一致している事がわかります。
続いて、普通にcos(π/6)を求めた例です。
続いて、sinを複素表記で計算した例です。こちらも「厳密な結果」欄は表記が異なりますが、小数表記は一致している事がわかります。
Maximaでも計算が可能です(Maximaの場合、虚数単位iや円周率piには、定数を表す記号%を先頭につける必要がある事に注意して下さい)。まずはcosの例です。WolframAlphaでは厳密解が異なる表現になっていましたが、Maximaではピッタリ同じ表示を出してくれました。
続いてsinの例です。
三角関数の複素表現が、正しく成り立っていることがわかります。
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